Eres todo para mi'.
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ヒラリ
ヒラリ
羽が空を舞うように、仮面の男はマント翻して立ちふさがる警官達を翻弄し、僅かな隙をすり抜けて駆ける。
次々と脱落者が出る中、それを逃すまいと必死に追いかける男が、一人。
逃すものか
逃すものか
逃すものか!
今夜こそ絶対に捕まえてやる!!
ギリ、と歯を食いしばり、形振り構わずに走り抜いて漸く仮面の男を追いつめる。
二人の男が対峙するのは、屋根の、上。
「ちょこまかと野良猫みてぇに逃げ回りやがって。やぁっと追い詰めたぜぇ…!」
月明かりの逆光で追跡者からは逃走者の表情を伺い知ることはできないが、慌てている様子はない。
「観念して大人しくお縄につくんだな。」
手錠を片手にじり、と相手の表情が見える場所まで距離を詰める。
あぁついに、この時が来た!奇妙な高揚を覚えたその時、仮面の男は追跡者へと向き直った。
口元に妖しげな笑みを浮かべて。
「Tu' eres estupendo」
「ァン?…ってうお!?」
他国語で語られた言葉に眉を寄せると同時に、逃走者が今まで抱えていた盗難品を投げたので、慌てて落下地点まで走って両の手に収める。
「俺をここまで追いかけてこれたご褒美、だ。」
何がご褒美だ、と顔を上げると間近まで迫った仮面の男の顔。
金と青、色の異なる瞳が楽しげな色を浮かべてこちらをのぞき込んでいた。
「今日のrendezvousはここまでだな。」
するり、と男にしては細い指が突然の出来事に呆然とする追跡者の頬を撫で、そして。
「Bye!darling.」
「!…待てっ!」
トン、と屋根を蹴り下へ…暗闇の中へ溶けていった。
逃げられた
また、逃げられたのか。
「………ち…っくしょぉおおおおおおお!!!!」
夜の街に、男の叫びがこだました。
捕まえてやる、次こそ、絶対に…!
こうして月夜の追走劇はおわりをつげたのだった。