cafe梵天

□C
1ページ/1ページ

突き刺さる視線から逃れ帰ってきた元親は、とりあえず風呂に入って背中にかいたいやな汗を流すと、主食であるビールをひっつかみ喉を潤して畳の上に大の字になった。

「あー…しみる…っ」

おっさんじみた言葉を発しつつ今日一日を反芻する。

朝寝坊してモーニングセット食いっぱぐれちまったよなぁ…
クソッ、一日の半分損した気分だ。

あぁでも、そのおかげて小せぇ政宗に会えたんだよな…

んで、手を引かれて(ちっちゃくて可愛かったなぁ…)店に入って、伊達さんに「いらっしゃい元親サン」って手招きされて…

それで…

ん?ちょっと待てよ?元親サン?

も と ち か さ ん ?

「£%#&*@§℃¥$¢◆◎∞!!!!?」

最後まで思い出しきる前に声にならない雄叫びをあげて起きあがる。

えっ、ちょ、えええ!?

元親サンって!俺名前で呼ばれてた!?視線に気ぃとられすぎて気付かなかった…!

両手で顔を覆い慌てふためく様は乙女のようだ。
落ち着け、落ち着け俺…と言い聞かせて深呼吸すると、再び畳に寝転がる。
明日…明日またコーヒー飲みに行って、それで元親サンって呼ばれたら、俺も…!

そう決めると早々にcloseの看板をぶら下げ、明日が早く来るよう布団に潜り込んだ。














****************************








翌朝


いつもよりだいぶ早く目が覚めてしまった(尋常ではないほど早く寝たので当たり前である)元親は、昨日早く店を閉めてしまった分、早くに店を開けることにした。

軽く朝食を済ませて身なりを整え、openの看板を表にぶら下げる。
修理済のご近所さんからの依頼品は昨日のうちにすべて配達し終わっていたので、客が来るまで店に並ぶ骨董品を磨く事にした。

さて、一昨日はどこまで磨いたんだったか…と並べられた商品(中にはがらくたも混ざっているのだが)を眺めているとカランカラン、と店の戸が開く音がする。
いらっしゃい、探し物か?と顔を上げて入り口を見るとそこには向かいの住人が立っていて。
「だ…っ!?」

「morning,」

予想外すぎる来客に固まっている元親に政宗は首を傾げると、いつぞやのようにHello?と顔の前で手を振った。

「随分早くから店を開けてるんだな?」

「あ?あぁ、昨日チィと早く店閉めちまったからな」

問われてようやく我に返るとそう答えて小さく深呼吸をする。
落ち着け、俺。夕方会う予定が少し早まっただけじゃねぇか!
見た目に似合わず乙女並みにシャイな元親はなんとかそう自分を落ち着かせると店の中を見渡す政宗に声をかけた。

「探し物でもあるのか?」

「ah…俺の店ってちょっと殺風景だろ?元親サンの店に何か良いantiqueでもねぇかと思って。」

出たぁああ!元親サン!!夢じゃなかった!そう内心テンパりながら勇気を振り絞って話を切りだす。

「なぁ、その『元親サン』って…」

「あ…sorry、馴れ馴れしかったよな…」

「い、いや、そうじゃなくて!その…別にさんなんて付けずに元親って呼んでくれても良いのにな、ってよ…」

元親に呼び方について問われた政宗は少し申し訳なさそうに眉を八の字にさせた、が慌てて元親が付け足した言葉に次はきょとんと目を丸くした。

あ、ちょっと幼げで可愛い…じゃなくて!俺っ

「ah…でも元親さん、俺より年上だろ?」

遠慮がちに見上げてくる表情は普段の強気な感じと違ってこれまた可愛…じゃねぇってば!

「そんなとこ気にすんなよ。俺は気にしねぇから。な?」

その言葉のあと、数秒政宗は考えるように俯いてから口を開いた。

「O…K.じゃぁ、俺のことも呼び捨てで呼んでくれ。」

「え!?」

名前で呼んでもらえるようになるだけでも幸せだった乙女…もとい、元親は、さらに次のステップに進んだことに激しく動揺した。

え、で、でもそれは…!

「でも、じゃねぇ!今日今この時から、政宗って呼べ!元親っ」

うわやっべ声に出てた!? って言うか元親って今…!!

俺の名前ってこんなに良い響きだったっけ…母ちゃん、俺を元親に生んでくれて有り難う…!!と、もとちか、の響きを数秒間噛みしめて反芻すると、本日二度目の大丈夫か?の視線に慌てて我に返った。そして、

「おう、じゃあ…政宗。」

「お、おう…」

照れ笑いしつつ応えると短い返事の後にしばしの沈黙が流れる。

先に小さな無言の空間に耐えられなくなったのは元親だった。

「あ!あのよ、今日もまた行くから、そん時にアンタの店に似合いそうなアンティーク、持っていくぜ?」

「元親、今日は土曜だぜ?」

「おう?」

「ウチは定休日だ。」

「あ…!」

そうだ。すっかり忘れていた、と元親は声を上げた。舞い上がりすぎていた自分が恥ずかしくなり、頬をかきつつ次の提案を思案する

「じゃぁよ、月よ…」

「じゃあ昼ウチ食いに来いよ。」

えっ?

もとちか の しこう が ていしした!!

それはもうものの見事に固まってしまったのだが、気付いていないのか政宗はさらに続けた。
「またモーニングセット食いに来るつもりだったんだろ?二人分作んのも三人分作んのも変わんねえし、な。」

ニ、と浮かべられた笑みにコクリと頷くと共に、元親の午後の予定が桜色に変わったのだった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ