水仙

□第零話 水仙
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微笑む彼女の笑みをもっと見ていたかっただけだった

「なのに・・・何でこんな事になっちまったんだろうな」

一人、傷だらけで森の中に座り込み呟けば声はむなしくも木と木に吸収され消えていってしまった。遠くで魏の兵達の怒声が聞こえてる気がするが、今は体が石になったんじゃないのかってほど動かない。動け、俺の体。じゃないと殺されるぞ。けど、本当に動かないんだ。瞳を閉じ休んでしまおう。俺は静かに瞼を閉じた。すると、五感のうち視覚以外が研ぎ澄まされある花の匂いを認識する。再び瞼を開けば先程感じた花の匂いにつられるかのように森の中を歩く。するとやはりあったあの花が

「・・・水仙」

美しく白く咲き誇った花は甘い香りを当たりいっぱいに広げていた。思わずその花に近づけばふと昔を思い出した。確か彼女の好きな花にこの花は入っていた。昔、この花を彼女に贈ればかなり喜んだっけ?そしてただ、ぼんやりこの花を見ていたら徐々にだがゆっくりと生気と言うのだろうか?心底からわき出てきた気がする。そう、俺は死んではならない。彼女の為にも。一歩踏み出そう。けど、この花の前だとどうしても昔が思い出されて一歩踏み出せない。俺はただ一人、再び瞳を閉じ、昔を思い出した


(思い出そう。あの楽しかった日々を)
 

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