記念小説:1

□この恋、きみ色
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初めに


※銀時、土方、妙、神楽は同い年です。

※異文化コミュニケーションクラブとゆう好き勝手なクラブが存在します。

※1−A:土方、妙
 1−B:銀時、神楽

※銀時×妙、土方×神楽が苦手な方はご注意下さい。
 (表記はします。が、上記前提で話は進みます。)






この恋、きみ色



桜が満開のこの季節。
新しい生活にわくわくしながら門をくぐる生徒たち。
それぞれの教室へと別れて行く中、妙は一人小さく溜め息をついてその扉の前に立っていた。

「…ここも、違う。」

教室の扉に貼ってある貼り紙。
そこにはその教室の生徒の名前が順番に記載されてあった。
妙は上から下までざっと目を通し、自分の名前がないのを確認すると隣の教室へと足を向ける。
この行為はこれで何度目だろう。
今年の一年生はE組まであるらしく、端から順番にE、D、Cと見ていったのだが未だ妙の名前は見当たらない。

「やっぱり、昨日の入学式は出るべきだったかしら。」

本来なら、昨日掲示板に名前が張り出されているはずだった。
しかしそれを過ぎてしまった今日、既に自分たちの教室は把握している前提で生徒たちはそれぞれの教室へと入る。
妙は本日何度目か分からない溜め息をまた一つ付いて、隣のB組へと足を向けた。

「…ねぇな……、」

B組へと辿り着くとそこには先客がいるらしく、貼り紙の前で盛大な溜め息を付いていた。
仲間かしら、と妙は首を傾げつつもその隣に並ぶ。
そしてその人物の横で同じように上から下まで眺めると、また、と心底疲れ切った声を漏らした。
と、そんな妙を見てふいに隣にいた男が声をかける。

「お前も、教室分かんねぇの?」
「えぇ。昨日、入学式出なかったから。」
「同じだな。」

朝から災難だよな、と苦笑いする彼の横顔に妙はつい見惚れてしまった。
綺麗な顔、とこっそり心の中で呟き、また貼り紙に視線を戻す。

「残るはA組だけね。」
「そうだな。」

ついでだから一緒に行こう、と初対面の相手と共にA組を目指し、二人並んで扉の前へ立った。

「…あった!」

真ん中より少し上。
そこにはっきりと、志村妙、の文字が書かれてある。
それにようやくほっとした妙は、貴方は、と隣の彼を見上げる。
すると妙と同じく、どこか疲れ切った顔をしながらも、あった、と笑う彼に妙もまた微笑み返した。
教室には既に多くの生徒が落ち着きなく動き回っている。
友達作りに、懐かしの再会に。
妙はそんな彼らの横をするりと通り抜けると、自分の番号の席に腰を下ろす。
ようやく一息付けそうだと安堵すると、同時に隣の席に腰を下ろす人物がいた。

「あ、」
「あ。」

それは見紛うことなく先程の彼。
妙はそれにくすりと笑うと、朝から大変だったわね、と声をかけた。

「まぁな。つーか、隣だとは思わなかった。」
「私もよ。ねぇ、貴方、名前は?」

これも何かの縁だろう。

「土方十四郎。」
「土方くん、ね。私は志村妙。よろしくね。」

そう言って手を差し出す妙に、一瞬驚くも彼、土方もまたその手を握り返した。

「よろしく、志村。」

そんなほのぼのな二人の光景に、周りの生徒が釘付けだったことは当の本人らは全く知る由もないことである。

それから数分後。
担任だという教師から軽く話があり、その後、昨日欠席していた妙と土方のために再度自己紹介が行われた。
順番に紹介が行われていく中、妙と土方の番だけ妙に生徒らが興味津々だったことは言うまでもない。
入学式にいなかったというだけでも注目の的なのに、更に二人のルックスも加われば自然と興味惹かれるのは仕方がない。
他の生徒の前だと途端にぶっきらぼうになる土方を横目で見ながら、妙は新しい生活に胸を躍らせた。

「で、昨日言ってたクラブの話だけど。きちんと提出してきたな。」

HRも終わり頃。ふいにそう話す教師の言葉に、生徒らは皆当然のように頷いた。
そんな中、妙と土方だけはきょとんと二人顔を見合わせる。

「先生。」
「何だ、志村。」
「私たち、クラブの話聞いてないんですけど。」

どうすればいいですか、という妙の言葉に教師はしまった、という表情を見せた。

「そうか…。そうだったな…」

途端に言葉を濁す教師の態度に、更に妙らは首を傾げた。

「あー、HR終わったら、志村と土方は俺んとこに来るように。」

そして放課後。
大した授業もなく、皆がそれぞれ教室を後にする中、妙と土方は二人その場に立ち尽くしていた。

「……行くか、」
「…そうね、」

そう言うものの、中々足は動かない。
今日一日、あることで頭がいっぱいで初日だというのにまったく集中できなかったのだ。
朝のHR後。教師の元へ妙らが行くと、彼は申し訳なさそうにこう説明してくれた。

「あのな。この学校は全員クラブに入らなきゃいけねーんだよ。」
「はい、知ってます。」
「でな、多分入試説明会の時に聞いたと思うけど、大会の日程上、早めに新入部員を把握しなきゃいけねーんだ。」

入試説明会。その言葉に妙はしまった、とこっそり後悔する。
元々高校に上がる気はなかった妙は、入試説明会など自分には無縁だと思って行かなかったのだ。
そんな妙に気付くわけもなく、教師はそのまま話を続ける。

「それで、毎年クラブ決定は入学式当日。遅くても今日の朝までってことになってる。」
「え、それじゃあ…」
「悪ぃが、それまでに提出しなかった生徒は強制的にどっかのクラブに入部ってことになってんだ。」
「………、」
「で、お前らの入部するクラブってのが…」

妙はまた、大きく溜め息をついた。
ついてない。
こんなにも入学式の日が重要だったなんて。
仕様がないと分かっていても、自然と気分は落ち込む。
妙は特に入るクラブは決めていなかったものの、入るなら絶対に運動系だと決めていた。
しかし実際には運動系になど程遠い。

「…行くぞ、志村。」
「えぇ。」

きっと彼もまた同じだったのだろう。
明らかに落胆しながら前を歩く男に妙はこっそりと同情した。

「土方くんは、どう見たって体育系だものね。」
「あ?何か言ったか?」

ぽつり、とそう漏らした妙に土方は振り向くが、妙はなんでもないと笑って誤魔化す。
そして二人、教室から幾分か離れた部室へ向けて溜め息交じりに歩を速めた。



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