記念小説:1

□残念ながらべた惚れ
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残念ながらべた惚れ




「…げ、」

部室に入っての土方の第一声はそれだった。
それに同じように部室内から心底嫌そうな声が返ってくる。

「何でお前が一番に…」
「何で土方が二番に…」

そう言うと、銀時と土方は同時にがっくりと頭を項垂れた。

「でもまぁ、今更だしね。ほら早く、」

嫌々両手を広げる銀時に、これまた嫌々と近寄る土方。
さっさと終わらせてしまえとばかりに銀時は土方をハグすると、「ご機嫌いかが」とお決まりの台詞を吐いた。

「最悪だよ馬鹿野郎。」
「俺もだよバカヤロー、」

何が楽しくて自分と変わらない体格の男を抱き締めなければならないのか。
柔らかくもなければいい匂いだってしない。
損をした気分になるのは当然だろう。

「どーせなら志村が良かったのに、」
「俺だってなぁ!」
「神楽が良かった?」
「………っ、」

途端にぐっと言葉に詰まる土方を見て、銀時はやれやれと溜め息をついた。

「大体神楽のどこがいいんだよ。アイツ、乱暴だし煩ぇし人のおやつ勝手に取るし髪毟るし他にも色々…」
「分かんねぇよ、」

冗談交じりにあれやこれやと話す銀時に、土方はそう、ぽつりと零す。
その横顔があまりに真剣で、銀時は茶化すのを止めて来い来いと手招きをした。

「何だよ、」
「いいから座れって。」

ぽんぽん、と自分が腰かけていたソファの横を叩き、そこに座るように促す。
土方はそれに渋々従い、そのまま腰を降ろした。

「お前さぁ、今まで恋、したことあんの?」
「は?」
「いやだから、」

人を本気で好きになったことあるかって。
そう言う銀時の表情は笑ってはいない。
こんな彼を見たのは初めてだ、と土方はこっそりと感心してしまった。

「多分、……ない。」
「だよな。」

あーあ、と呟く銀時の横顔はどこか寂しげで。

「俺もさ、今まで誰かを本気で好きになったことなんてねぇんだよ。」

いつもふらふらと、誘われれば誰にだってついて行ったし、正直誰でも同じだと思っていた。
自分を好いてくれているのなら何だって良い、と。

「けど、さ。アイツは駄目なんだよ。志村、だけは」

自分を好きだとかそうじゃないとか、そんなの関係なく。
ただ自分自身が彼女を本気で、心から真剣に好きだから。

「誰でも同じだ、なんて有り得ねぇ。」

志村じゃなきゃ、無理なんだ。

「…無理、ねぇ。」
「お前も同じだろ。神楽じゃなきゃ、意味ねぇんだろ。」

確かに。
きっと今の自分がああやって笑える相手は神楽を置いて他にはいないだろう。
彼女だから傍にいたいと思う。彼女だから守ってやりたいと思う。
彼女だから。

「そーだな。俺も、アイツじゃなきゃ無理なのかもな。」
「……クラス替え、してーな。」
「神楽にも言ったけど、テメェらが揃ってA組に来い。」
「いや無理。マジで。」

Aなんて、どれだけ優等生が集まってると思ってるんだ。
それこそ学年のトップ40がそのままごっそり入っているようなものなのだ。

「俺、数学13点だし。」
「…20点満点だろ?むしろ15?」
「やかましい。」

確か神楽は英語が21点で喜んでたはずだけど。
そう言う銀時に、土方は痛くなる頭を押さえて有り得ねぇ、と呟いた。

「うっせぇよ!そりゃ、お前らに比べたら出来ねぇかもしんねーけどな!俺だってやれば出来…」
「志村に教えてもらえよ。」
「…は?」
「勉強。アイツ、この前のテスト学年3位だぞ。」
「………マジでか。」

それはワースト3位ではなく?
どれだけ勉強すればそんな順位を得られるのだろう。

「ちなみに俺は4位だったけど。」

3位内に入れなくて残念、とほざく土方に銀時の容赦ないチョップがお見舞いされた。

「いって!ふざけんなっ!!」
「ふざけんなはこっちだっつーの!お前数学何点だよ!!」
「100。」
「え、500点満点中?」
「100点満点中だ、馬鹿。ちなみに志村は英語が100。」
「…………、」

100なんて数字、小学校以来見たことがあっただろうか。
ああ、もう駄目だ。

「もういい。お前らなんて敵だ、敵。」
「アホか。こんな良い家庭教師がいるってだけで有り難く思え。」
「…家庭教師、ねぇ。」

土方のその言葉に、銀時は一瞬、教師として黒板の前に立つ妙を想像した。

「先生、か。うん、萌えるかも。」
「変態か、お前は。」

すぱんと後頭部を土方に叩かれ、その妄想も一瞬にして消し飛ぶ。
が、俄然やる気になった銀時は、よっしゃ、と勢いよく立ちあがった。

「目指せA組!」
「頑張れ劣等生。」
「お前も神楽教えんだろ?土方センセ。」

にや、と笑う銀時につられ、思わず、先生、と自分を呼ぶ神楽を想像してしまう。

「まぁまぁ。変態同士、頑張ろう。」
「………っ、一緒にすんな!」

まあ、つまりはべた惚れってことで。





  end



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