頂き物(文章)

□達磨の化身と焦茶の牛
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「相変わらず陰気な顔してるよ、京士郎。なあ?」


頭上から降りかかった声に京士郎の脳は一旦停止した。次の瞬間には無視して歩き去ることを考えたが、そんなことは“見えて”いたのだろう、声の主が素早く姿を現す。


「そんな酷い顔しないでよ。傷つくよ」


「……何の用」


「いや、ぼーっとしてたら派手な憑物神が通りかかったからさ」


京士郎の目の前で、突如現れた少女はにこにこ笑う。浴衣に身を包んだ童女だ。何も知らない者が見れば癒されるかも分からなかった表情も、京士郎にとって見れば溜め息の元凶にしか成り得ない。


「なら私行くけど。暇じゃないし」


「あらららら、私の目には一仕事終えて休憩も終えて、さてどうしようかと呟いた達磨さんが見えていたのよ?」


「……ッ」


「うふふ当たりね。当たりでしょ。私の能力もまだ捨てたもんじゃないわね。すてき」


京士郎の腰程の背丈しかない少女はくるくる回ってあははと笑う。少女の額から生える二本の小さな角は彼女が人外であることを物語っていた。





『達磨の化身と焦茶の牛』





「本当に何の用よ。うざったい。焼くわよ」


「うわあ率直に言いやがった。引くわ。人でなし。むしろ達磨でなし? 分からん。まあいいか。達磨の根性に従って七転八倒を挙げましょう。という訳で君の脅迫ごときで私は退かぬ」


「そう、残念」


「止せ止せ! 経典を向けるな! 悪かったって。ちょっと聞きたいんだよ。つーか私が君と話す理由なんかいつも一つじゃないか。いちいち聞かないでよ」


「一応聞いとくのが礼儀ってものかとね、殊に大妖怪の件(くだん)サマには」


「そういう嫌味は感心しないなあ」


京士郎は目の前の妖怪を見下ろす。焦茶の衣装と額の角はいつも通りだ。しかし。


「何でそんな姿なのさ」


「うん?」


「前までは無駄に長身の男だったくせに」


「ああ! いやね、時代は幼女らしいからね」


「いつの時代よ」


「千年後」


「……未来もいいとこね」


「今の私の流行りは千年後さ! 西暦2000年! 西暦って分かるかい付喪ガール? ははは」


「私に分かるのは、あんたと話すのは異常に疲れるってだけ」


「やっぱり酷いな京士郎は。そんなんだからモテない……いや違うね、そんなんだから変な奴らにモテるんだよ。私とか紫とかさ」


「……自覚あるんならさぁ……」


こめかみの辺りを押さえて色々と耐える京士郎を嘲笑うように、少女は足先の蹄を打ち鳴らす。


「生憎だけど、私も紫も死んでもこれよ」


「……まったく」


京士郎の溜め息は増えるばかりだ。
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