ポケモンLongNovel
□アルベリック・ジラルダン
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「あなたがこのコンテストの主催者だったなんて驚きです。
あ、申し遅れました!!自分はタケシと言います」
「宜しく。えっと…タケシくんもコーディネーターなのかい?」
「いえ、自分はトップブリーダーを目指して二人と一緒に旅をしてるんです」
「トップブリーダーかぁ…うん、夢は大きくなくちゃね。応援してるよ」
「ありがとうございます!…おい、ヒカリ。いつまで後ろに隠れてるつもりだ?
コンテストに招待されたのはお前だろ?」
「だ、だって!!…まだ心の準備が…」
挨拶をするだけで一体どういう心の準備が必要なんだ?と内心思いながら、タケシはヒカリの両肩を掴んでグイッと前へ出した。
そんな二人を見てジラルダンは微笑した。
「改めまして、僕はアルベリック・ジラルダン。宜しく」
「〜ヒ、ヒカリです!!この度は招待して下さってありがとうございました!!」
「こちらこそありがとう。この前のミクリカップを見て是非招待したいと思ってね。
君みたいに優れたコーディネーターが参加してくれると嬉しいよ」
「〜!!!!!み、見て下さってたんですか!?」
「勿論。さ、中へどうぞ!!折角だから会場の中を案内させてもらうよ」
(第3話 アルベリック・ジラルダン)
「エントランスを抜けて一番初めの部屋、ここがロビーだ。
正面に見えるのがインフォメーション。何か分からない事があればここのスタッフに何でも聞いてくれ。
右手にある階段の横に通路が見えるだろ?あの細長い通路を抜けると衣装部屋だ、コンテストに参加してもらうコーディネーターにはそこで着替えてもらう。自分で用意したドレスを着てもらっても勿論構わないんだが、室内に揃えてあるドレスならどれでも好きなものを着てもらっていい。
衣装部屋の目の前の部屋が控室。ここには大きなモニター画面が三台あってそれぞれが違う場面を映しているんだ。まずコーディネーター、ポケモン、そしてステージ全体をメインにしたモノ。この3パターンで色んな角度を同時に見る事が可能なんだ。コーディネーターのポケモンへの指示や細かい演出が良く分かると思うよ?…そしてお待ちかね、ここが本館のメインになるー…」
「ポケモンコンテストのメインステージだ」
一度ヒカリに視線を向けたジラダンは微笑みながら扉を開いた。
「き、綺麗…それに凄く大きくて広い!!!!客席だってこんなに沢山!!!」
「確かに…今までのコンテスト会場とは比べ物にならないぞ…よかったなヒカリ!!」
「うん!!!!」
「ははっ、喜んでもらえて嬉しいよ。さ、遠慮せずにじっくり見てくれ。
ステージに立って客席を見てもらっても構わないよ?」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!!!」
嬉しそうに客席からステージに向かって行くヒカリを見届けた後、意味ありげに黙ったまま視線を送るサトシにジラルダンは目を向けた。
「僕を見てからずっとそんな表情をしているね…君は。どこかで会った事があったかな?」
「オレは忘れてない…お前がした事」
「僕がした事??」
「〜っとぼけるな!!!ルギア達にあんな酷い事しておいてよくもそんな事っ!!!」
突然大声を上げてジラルダンに掴みかかろうとしたサトシに気付いたタケシは慌てて止めに入る。
遅れてやってきたヒカリも慌ててタケシと同様サトシを抑えた。
「サトシ、落ち着け!!急に一体どうしたんだ!!!」
「そうよ!!さっきから黙ってておかしいと思ったらこんな事してっ!!!」
「だってこいつは!!!」
「ルギア…!!〜っ、まさか君がアーシア島の事件を解決した少年なのか!?
何て事だ…まさかこんな所で会うなんて」
ジラルダンは片手を額に当てて困ったようにサトシを見た。
「…どうやら事情があるみたいですね。サトシとは無関係という訳ではなさそうですし…良ければ話して頂けませんか?」
「…ああ、そうだね。君達には話さなくてはならないようだ。
兄さんの…アルベリック・ジラルダンの事をー…!!!」
一度唇を噛み締めた後、ジラルダンはその重たい口を開いた。
「僕の本当の名はアルベリック・ボルダン、ジラルダンは…僕の双子の兄なんだ」
◇◇◇
「つまり、アーシア島で起こった事件は貴方のお兄さん…ジラルダンさんの起こした事件だったんですね?」
「ああ…、兄は昔から自分が欲しいものは絶対に手に入れたいっていう思いが強い人だった…
だからあんな事件を起こしてしまったんだと思う」
「でも…じゃあ何でジラルダンさんのフリをする必要があったんですか?
ボルダンさんは関係ないじゃないですか」
「…アルベリック家は常に完璧を目指して才能や財力を掴んで来たんだ。
いくつもの企業を支援してきたし、大きな会社だっていくつもある。
でも、そんな名高い家の長男があんな大変な事件を起こしてしまったとなったら…!!!」
「他企業や世間からの信頼の喪失…ですか?」
タケシの一言にボルダンは首を縦に振った。
「アルベリック家はそれを一番恐れたんだ。せっかく積み上げてきた栄誉や信頼が全て壊れてしまうかもしれない。
だからこそ誰でもいいから他の人に罪を被せる事は出来ないか、そう考えた。…そして、全ての罪はジラルダンではなく弟のボルダンになすりつけられた。両親にはこう言われたよ、お前が今日からジラルダンなんだってね」
「そう、だったんですか…」
「そして、アルベリック家は財力の全てを使ってアーシア島の事件に関与した事を全て隠蔽(いんぺい)したんだ。恐らくこの事件を知っているのは当事者達だけだろうね。
…僕達は汚いだろ?罰すべき過ちをお金で何でも解決してしまうんだから…許されない事だよ」
一通り言い終わると、ジラルダンは三人に顔を向けてすまない、と頭を下げた。
「でもさ…ボルダンさんは話してくれたじゃないか、本当の事。
ママが言ってたんです。本当に許しちゃいけないのは悪い事をしても反省しないで隠してる人なんだって…だから、オレはボルダンさんを許します」
ボルダンが頭を上げると、そこには初めて笑顔を向けるサトシがいた。
◇◇◇
「今から時計塔に?」
「はい!!ジョーイさんから見晴らしがとっても良いって聞いたので行ってみようかと思って」
「コンテスト会場を見てから行こうって昨日決めてたんです。な、タケシ」
「ああ!!!ジョーイさんのオススメスポットだからな♪あぁ…ジョーイさんと一緒に眺められたら最高だろうなぁ…w」
急に恋する乙女モードに入ったタケシを見てボルダンはクスクスと笑った。
「うん、確かにあそこは見晴らしが良くてとても綺麗だよ。それに、行けばこの町の名の由来も分かるしね」
「由来…ですか?」
「ああ、よかったら案内しようか?」
「え!?お忙しいんじゃないですか!?」
「構わないよ、この町の事を色々知ってほしいしね」
「?ボルダンさんってもしかしてヨツノハタウン出身なんですか?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど。実家の書庫で見つけたある文献に、この町には伝説のポケモンが出現するって書いてあって…興味本位で調べて行くうちに緑豊かなこの町が好きになっていってね。それでこの町の事をもっと他の人に知ってもらいたいと思ってコンテストをここで開く事にしたんだ」
「確かにこの町は緑でいっぱいですよね!!ポケモンもよく見かけるし」
「だよな!!着いた時はバルビートとかイルミーゼもいっぱいいたし…あ、アゲハントも見かけたな!!」
「ああ、それがこの町の良いところの一つ。自然が多いおかげなのかこの町には他の地方のポケモンも多く生息しているみたいでね、私はそこが一番気に入っているんだ」
「あ、そういえばさっきボルダンさんが言ってた伝説のポケモンって何なんですか!?オレ凄く気になります!!」
「あ!私も気になってたんです!!」
「ははっ、知りたいかい?」
こくんと頷いて期待の眼差しを向けるサトシとヒカリを見て意地悪そうにもったいぶった後、ボルダンはニッコリと笑った。
「答えは…アレさ」
立ち止まって上を見上げたボルダンの目線の先には時計塔があった。
「時計塔?」
「〜分かった!!!あそこに伝説のポケモンがいるんだ!!!!」
「サトシったら…そんな訳ないじゃない」
「はははっ!!!くっ…いや、ほぼ正解だ」
「えぇっ!?ほ、本当なんですか!?」
「ふふっ。さ、ここの角を曲がったら時計塔の入り口だよ」
噴きだして笑わないよう口を押さえて前を歩くボルダンにサトシ達が続いて歩く。
「待ってろよぉ、伝説のポケモン!!!」
「伝説のポケモン…一体どんなポケモンなのかしら♪」
イキヨウヨウとはしゃぐサトシとヒカリを見てクスクス笑い続けるボルダンを見たタケシは、この人って実はかなりからかい上手な人なんだなぁと思った。
◇◇◇
「こ、コレが…」
「伝説の…ポケモン?」
「そう、これが伝説のポケモン、ミュウの……石像だ!!!!」
(やっぱり…な)
ガッカリと肩を落としたサトシとヒカリを見てタケシはため息をついた。
時計塔の最上階に辿り着いたサトシ達の目の前には、町一帯の景色。
そして、確かに伝説のポケモン、ミュウがいた。(石像だが)
「ボルダンさん…!!!!オレ、本当にいるんだと思ってーーー〜◎×◇△!!」
言葉にならない悲痛を叫ぶサトシにボルダンはごめんごめん、と笑いながら謝った。
「わ、私も少し…いえ、ほんのちょっとだけだけど信じてたのにぃ!!!」
「すまない、二人の反応が本当に素直だったから、つい」
ペコペコと頭を下げるボルダンを見てタケシは仕方ないと助け船を出す。
「まぁ全くの嘘じゃなかったんだし、二人とも落ち着けよ。な?
それにしても良くできた石像ですね…まるで本物を固めたみたいだ」
「あ、ああ!!造りが凄く細かくてね…かなり高度な技術を駆使して造られた物なんだと思う。
この町の人はみんなこの石像と景色を見る為に時計塔に来るんだよ」
「ほんとう、今にも動き出しそうで凄く素敵…ね、ポッチャマ」
ヒカリの腕に抱かれたポッチャマは石像に魅了されるようにポッチャ、と呟いた。
「でもさ、何かこのミュウ悲しそうじゃないか?」
「悲しそう?ぁ…確かにそうね、それに何だか辛そうな感じがする」
「言われてみれば…そうだな」
サトシの意見にヒカリとタケシは何となくだが同意した。
「驚いた…君達にはココロが見えるんだね」
「「「ココロ??」」」
「昔からこの石像にはココロが宿ってるって言われているんだ。だけど僕や村の人達にはその感情を読み取ることが出来なかった…君達は凄いね」
素直に尊敬の言葉を述べられ、三人はそれぞれ頬を赤くして恥ずかしそうに笑った。
「あ、そう言えばまだ町の名の由来を教えていなかったね?こっちに来て町全体を眺めてごらん。
きっと答えが分かるよ」
ボルダンに言われた通りサトシ達は町全体を眺める。
そして改めてこの町は緑が多いと実感した。
風が時々なびいて眺めも最高に良い、だがボルダンの意図する答えが見つからない。
(町全体を眺めてごらん)
「わ、分かったわ!!!!ボルダンさん。この町、クローバーの形をしてるのよ!!!」
ボルダンの言葉を思い出したヒカリは真っ先に答えた。
「へ!?あ、あーっ!!!!ホントだ、スゲーっ!!!」
「まさにその通りだな…。こういう形になるように考えて造られた町なんですか?」
「いや、もともとがこういう形だったみたいだよ。それで、これは縁起がいいぞって事になったみたいで。
四つの葉=ヨツノハになったそうだ」
「へー!!!ヨツノハタウンってそういう意味だったのか」
「気付いてもらえて何よりだ!!!…あれ、もうこんな時間か」
「?何か予定があるんですか?」
「ああ、祭りの出店の打ち合わせがね。悪いけど今日はここでお別れだ。
あ、帰り道は分かるかい?」
「はい、大丈夫です!!ポケギアもありますし」
「今日は色々ありがとうございました!!!」
「コンテスト、精一杯頑張るので当日は是非見て下さいね!!!」
「ああ!!!楽しみにしてるよ。みんな気をつけて帰ってね…それと…」
一度顔を下げたボルダンは再び顔を上げた。
「今日は本当にありがとう、君達のおかげで久々に心から笑えたよ」
こちらこそ楽しかったです、と元気よく手を振って別れるサトシとヒカリを余所に、
ボルダンの言葉の意味に気付いたタケシは少しだけ心を痛めたのだった。
TO BE CONTINUED...
あとがき....
やっと第三話アップデス。
実はこのお話が一番重要で、そして一番書きたくなかった内容のお話です←
書きたくなかったっていう理由はただ文章がまとまらなかったという意味で(汗)
とにかく脳内で考えている物を文章に起こすのが難しくて…
でも何とか書き終わったので一安心。
ここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました。
また第四話で皆さんとお会い出来ると嬉しいですww
(※毎度の事ですが、アルベリック家の人たちはみんなオリジナルで考えた人物です。
オリジナル要素が若干入ってホントにスミマセン!!!出来るだけ原作重視して行きます!!)
>余談
ボルダンが別れ際に言った最後の一言の真意に気付いて下さる方がいたら嬉しいです←
。