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□よろこびのうた
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ひとつ、財布の中身を全く気にしないと買い物って楽しいもんだね。
ひとつ、世話を焼くって実は楽しいタイプだったの?俺。
けどね…けどな…ちょっと待てよ。
「こんな展開望んでねぇんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
淡い色をした花束のブーケを力一杯床にたたきつけた。
「おいおい、何騒いでんだ?」
涼しげに煙草をふかしてる男は一張羅の燕尾服をばきっときめこんでいる。
一生に一度(であって欲しい)晴れの舞台にふさわしい姿だ。
元がよければこうも栄えるのかというほど、様になっている。
来客が溜め息をこぼしそうなほど見栄えのする花婿だ。
その横でしかめっ面を通り越して能面のような顔をしているのが花嫁。
もうすぐ挙式が始まるというのに、不機嫌全開のご様子である。
「ありえない…ありえないからね?この状況。」
「おーい…。俺の話、聞いてるか?」
ぶつぶつと呟く花嫁はもちろん、純白のドレスに身を包んでいる。
花婿が給料んヶ月分はたいて開く挙式だ。ドレスも半端なく豪華にした。
「なんでそこ冷静?これはアレか。嫌がらせか。新手のいじめかー!?」
「だから落ち着けって。緊張してんのか?」
「どこを見たら緊張してるように見えるんだボケーーー!!」
花嫁…の、立場にある彼はヴェールをティアラごとぶちぶちとむしりとり、銀色の髪を髪をわしわしかき回した。
「あーー!銀ちゃん何してるアル!せっかく綺麗だったのに勿体無いヨ!」
花嫁と花婿の控え室は本来別々だ。
だが花婿が完全に花嫁サイドの控え室に入り浸っている。
控え室はそこそこ広い部屋で、部屋の中には万事屋メンバー、新八の姉である妙やお登瀬もいる。
花婿の部屋は男しかいないので、むさいことこの上ない。
故に花婿が潤い(主に嫁)を求めて控え室に入り浸っているわけである。
「もう。銀さんったら。今更なんです?侍ともいう方がここにきて。」
「あのなぁ、お前らのほうがなんなの?この状況を見ておかしいと思わないわけ?」
妙のあきれたような表情を、周囲の誰もがしている。
納得していないのは花嫁だけというように。
「だって今となっちゃ同性同士の結婚もありな世の中になってるわけですし…。国の法律も天人の影響で変えられちゃいましたからね。お二人にはちょうど良かったんじゃないですか?」
「ちょうどいいって。新八君きみねぇ…」
床まで広がるスカートをふわりと揺らし椅子に腰掛ける。
そしてはぁ、と溜め息をついて今一度ぼやく。
「確かにこいつと結婚するとは決めたさ。俺が言いてぇのはもうそこじゃねえんだ。」
「じゃあ何が気に入らないんです?」
「あ?わからないでか!?」
「んー……ちょっとだけわかるような気も…。」
「よく似合ってるぞ、銀時。」
−−−−−−−ぶちん。
あ、やべ。
花嫁、キレた。
「てめぇが言うかあああああああ!!ああん!?」
「ちょ、ええええええ!?」
花婿の胸倉を掴んで怒号を撒き散らす花嫁。
こんなことは日常茶飯事だけど、こんな日までするんかい、と一同は冷めた視線を送る。
「なんっで俺がウェディングドレスよ!!えぇ!?」
「俺が見たかったからだ!」
「きっぱり言うんじゃねぇよ馬鹿ぁーー!!清清しいよ!いっそ清清しいよお前!!そんでそのまま死んで来い!!」
「銀さん落ち着いて!たしかにごついけど綺麗ですよ、ドレスは!!」
「フォローになってないからね!?ソレ!!」
「二人とも…やめんかーーー!!」
ごっ!!がすっ!!
二人の脳天に一撃必殺のチョップが振り落とされた。
妙渾身の一撃である。これで幾度と無くストーカーを4分の3殺してきた。…ではなく、のしてきた。
しゅう…煙が出てるようにみえるのは幻覚と思っておこう…新八はひそかに思った。
その横で「姉御さすがアル!!」と神楽が飛び跳ねて喜ぶ。
「寿の日に喧嘩なんて、犬の餌以下ですよ。二人ともいい大人なんですからみっともない真似は止めてください。」
頭を抑えながら今日のメインであるはずの二人は、小さく「はい」と返事をした。
10歳以上年齢の離れた若い娘に、男二人が負けている…。情けない図だが相手が妙では仕方ないとも思う。むしろ同情する。
「まったく…。式までそう時間はないんですよ?私達ももう式場へ行きますから。貴方達は頭を冷やしてきて下さいね。くれぐれも他の人の迷惑にならないように。いいですね?」
「わーったよぉ…。ったく…俺の母ちゃんかコノヤロ…」
ヒュンっと銀時の鼻先を手刀が掠めた。
「何か…言いました?」
「いいえ…何も………。」
冷や汗がとめどなく流れていった。
般若だ…ここに般若がいるよ…。
「それじゃ、私達はコレで…。」
「また後でなー。バイバーイ銀ちゃん…とニコチンコ。」
「夫婦喧嘩は家の中でするんだね。そいじゃ、後でね。」
「オ前ラ、タダノ馬鹿ヨ。キメェンダヨ。バーカ。死ネ。」
「キャサリン!!いいから出るよ!!」
「じゃあ、僕達先に行きます。…仲直り、してくださいね?」
ひらひらと手を振る新八の姿が最後で、すっかり二人きりになってしまった。
今までの喧騒は何処にいったのやら、ばつが悪くなるほどの静寂だけがそこに残った。
「なぁ…銀時…。」
「ぁあ……?」
「チャイナは未だに俺を嫌ってないか…?」
「嫌ってるっつうか…嫌ってるね…。」
「少しはフォロー入れるとか遠まわしに言うとかしろよ…。」
「俺は本当のことしか言わないの。」
「なぁ・・・銀時。」
軽くイラっときた。
こう同じ調子で延々と「なぁ…」と質問攻めでもされそうだ。
「なんっだよお前は!!言いたいことあるんならハッキリ言えや!!」
ゆるりと腰に回される腕。
そのままシルクの生地に顔をうずめて銀時を抱きしめる。
「っだよ。キショいよお前。」
「なぁ、銀時。」
「だから、何っ!?」
「そんなに…嫌か?」
「あぁ?」
「だから、その…。」
「…あ〜〜…。」
がしがし、と頭をかく。
こんな姿、こいつの同僚にゃ見せられないね。
そんなこと考えて苦笑いを浮かべた。
「悪ぃ、ちょっと言いすぎちまった。」
似たもの同士は喧嘩するけど、それだけ相手の心理をよくわかってるってことでもある。
鬼と呼ばれようが、打たれりゃ弱い弁慶の泣き所だってたやすく見つけられる。
まさか、鬼の泣き所がほかならぬ銀時なのだと、本人はわかってないようだけれど。
「俺が怒ってるのは、俺に何の相談もなくこんな馬鹿騒ぎみてーな式、勝手に決めたからだ。」
「相談したじゃねぇか。」
「あの話でここまでの挙式やらかすなんて、誰が思うかよ。俺ぁてっきり…。」
「てっきり?何だ。」
「身内で宴会して終わりかな、と…。つうかそんくらいで丁度いいかと思ってたからよ…。まさか給料使い込んでこんな馬鹿しでかすとは思わなかったわ。俺ドレスだし。」
「じゃあ俺がドレス着…。」
「それはもっと勘弁な。」
苦笑すれば、土方の強張りが少し溶けた。
「これからはこんな風に勝手に決めんのは無しな。一緒に暮らすんだからよ。」
「もう暮してるようなもんだろうが。」
「あ…そうだな。」
二人してクスクス笑って、目が合えば額をこつんと合わせてまた微笑む。
「お前は怒るかもしれねぇけどよ…。」
「ん、何?」
かぁっと顔を火照らせて、花婿は絞るように囁いた。
「本当に綺麗だわ・・・お前。」
「なっ…なっ…。」
負けずに顔を真っ赤にする花嫁。
「そういう恥ずかしいこと、言うなよっ。」
「俺だってこんなときじゃなきゃ言えねえよっ。」
「あぁ、もう!」
ぎゅう、と花嫁を抱きしめる。
それはすがりつくようでいて、何かから守っているようでもある。
きっと、両方だ。
「一生かけて幸せにする。絶対だ。」
「当たり前だ馬鹿。幸せにしろコノヤロー。そのかわり…。」
花婿の頬に手を添えて、精一杯の言葉を…
「俺の一生、テメェにくれてやる。」
「ぎん…」
名前はつむがれることなく、初めてのときみたいな震える唇で塞がれた。
……その様子をドアがちょっとだけ空いている隙間から覗き見る人間が数名。
「あんのニコマヨ野郎、ムカつくアルなぁ…!邪魔してやりてぇ…!」
「ちょ、よしなよ神楽ちゃん、やっと仲直りしたんだから。これ以上こじれたら、式なんてどころじゃなくなっちゃうよ。」
「おいチャイナ。暴れるんなら手ぇ貸すぜぃ。」
「アンタも物騒なこと言わないでくださいよ。アンタが出てきたら式場が吹き飛びます。」
「お妙さーん!僕達もいつかこんな式場でけっこ…」
「死ねゴリラ。」
「でもま、二人とも幸せそうで何よりじゃないか。何だかんだで幸薄かった奴らだからね。この程度の幸せくらい、あってもバチは当たらないよ。」
「お登瀬さん…。」
さすがに年季の入った人間の言葉は重みが違う。
「そうですね…。僕達は今日くらい、祝福してあげなきゃ…ですよね。」
「わかってるじゃないか。」
幸せそうな二人を見守りながら、ほんの少し、幸せな気分をおすそ分けしてもらったような。
それよりも、大好きな貴方達がずっと幸せに暮せますように。
皆、心の中で願ってる。
二人とも、お幸せに!!
終わってしまえ。