05/17の日記

20:28
EDEN REJECTION 13
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体を抑える指の表面に、赤く痕がつけられる。
抗うことなど毛頭無い。たとえ、以前のように抵抗しようにも、顔の向きを動かすことさえ苦しいほどの体力の消耗であるのに、逃さまいとシキの手が、指が、アキラを捕らえる。
愛撫というものは一つもない、ただただ欲だけをぶつけられる連続。
意味も無いはずの行為であるのに、本当は虚しさだけを抱くはずなのに、飽和してしまいそうな意識を確かに感じるものが掴み離さない。
「っあ・・・・・っん・・・は・・・っ!」
何度目かもわからない絶頂を全身が駆け巡る。
流れ落ちる白濁を拭うこともなく、組み敷かれ、汗で濡れる。
「・・・・っ。」
アキラの上に被さった黒い髪が振るえ、汗が落ちる。
「ん・・・・っ。」
体の中で滾りが満たされていく。
「・・っあ。」
苦しさをやり過ごすかのように、シキがアキラの首に顔を埋める。
荒く爆ぜる息を感じる。
埋めるシキの黒い髪に、アキラは顔を摺り寄せた。まるで、抱きとめているのが自分かのような錯覚を覚える。
錯覚ではなく、なんとなくではあるが、自覚に近い。
全身にかかる重さと熱さが、同じ人なんだと今更ながら思った。少し冷えを感じていたのだろうか、じんわりとシキの熱を温かく感じる。
言葉を交わすことなく、眼を閉じていた。
どれだけこのまま抱き合っていたのだろう。
本当は、こうして抱き合ってるだけでいいのに。
けれども人はどうして体を交わらないと気持ちが通じ合えないのだろう。
言葉だけでは到底足りない。優しく触れ合うだけの想いなど持っていない。
どこにも逃げたりなんかけしてしないのに、アキラを捕らえるシキの腕。
それがシキの本音なのかもしれない。
引きちぎれそうな痛みを発していたはずの左腕が、痛みとは違う、針でつつかれたような刺激を覚えた。
首筋に残る青い痣。痛みを伴う体中の痕。刻まれ枷をつけられたピアス。
言葉を持たない代わりにけれども鮮明に体に残してくれている想い。
「シ・・・キ?」
動かないシキに、小さく声をかける。
返事が無い。
荒く上下していた胸板の感触が、小さく、深呼吸をするように動くものに変わっていた。
首筋を掠めるものは・・・
(・・・・・・。)
どきりと胸が大きく鼓動し、アキラは眼を丸くした。
なぜか気恥ずかしさを覚える。同時に、口元がほころぶ。こうしてシキが眠ることなんて、無かった。
寝息を体で感じた。
きっとシキは知らない。シキがどれだけ心地よく、優しい匂いを持っているかなど。
アキラ一人だけが知ることなのだと思うと、全身が優越感で満たされる。
本当に、この生きている世界がたった二人きりならいいのに。
そうしたら、ずっと永遠に、死ぬまでこうしていられるのに。
眼が覚めたら、シキは自分の体から離れていく。置き去りにされる。
辛いことも、寂しいと思うことも、シキが残していく痕。
今まで生きてきてけして抱くことなどなかった。
シキだけがくれた、シキの手でなくては見出せなかった、知らない自分自身の姿。
きっと、本来あるべき正しい世界では、滑稽に、色に溺れた姿なのかもしれない。
快楽だけでなく、痛みすらも全て欲する惨めな人から外れた道。
けれども、今、この中に幸せがある。
あまりに儚く、すぐに粉々になってしまうものではあるけれども、確かに今、ここにある。
こうまでしないとわかりあえないから、それに答えることだけがアキラの生きることなのだと、そう思った。
さぞかし狂っているのだろうと思う。そんなことは当に理解している。
でも、それでいい。誰かの評価などはいらない。
シキがくれる全ての感情、感覚が、自分に対する全てなのだから、ただ、それに全身全霊で応えるだけ。それが、アキラというものの存在意義。
シキにだけ許される存在であればそれで十分だ。
だから、いつかこの許された世界が壊される時はシキによってではなくてはいけない。
きっとその未来はいきなり訪れるであろう。
その長く美しい刃を突きたてられる。
その時は、せめて刃が綺麗に赤く染まってくれるといい。
そして、ほんの少しだけで。
嘘でも良いから、
「愛していた」と、言って欲しい。
そんな淡い夢を抱きつつ、深く目蓋を落とした。
「どこまでも・・・俺は、あんたの物だ。」
ぽつりと呟いた言葉はどこまでも幸せそうだった。
「ありがとう。」
これが相応しい言葉なのかどうか、もうまどろみ始めた脳には判断がつかなかったが、それでも今の気持ちを表すには十分なものだった。
シキが他の誰でもない、自分を選んだということに。
そして、シキと出会っていなかった世界に生きていた自分との決別を込めて。
安らかな寝息がすぐにアキラを覆った。
「・・・・・・。」
首筋に顔を埋めていたシキがうっすらと目蓋を開ける。
『シキのそばにいたい』
アキラの言葉が胸を打つ。
「・・・・。」
少し上体を起こすと疲労感がのしかかった。
わざわざそれを押し留めて起き上がる必要などないだろうと判断し、溜息を吐き出しながら、体を再度沈め、瞳を閉じる。
重なるアキラの頬に唇を掠めたことなど、ただの偶然だと言い聞かせながら。

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