SS2

□sweet sheet
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今のような冷える朝、触れていたいと思う素肌はけして人を暖めるというほどの体温の持ち主ではない。
どちらかというと、こちらが暖めてやらねばそのまま冷えて冷たくなり、死んでしまうのではないかというほどか弱い生命力しか持ち合わせていなかった。
しかし、その冷たさが自分の体温でぬくんでいく様は触れていてひどく落ち着く。
日も出はじめた頃合、そろそろと体を起こすと、いやだと制止された。
「もう、いっちゃうの?」
寝ていたはずのアキラが目を覚ましてシキに行かないでと懇願する。
「邪魔だ。すぐ戻るから大人しくしていろ。」
眉を下げて悲しそうに見つめられる。
「シキがいないといやだ。」
胸元へ頭を預けてアキラは抱きつく。
何も纏っていない肌は外気に晒され、徐々に冷えてきているのがわかる。
「何か着ろ。体を悪くされては鬱陶しい。」
「じゃあ、シキが暖めてくれればいい。」
シキの厚い胸板に埋めた透明な肌はじわじわと火照りを覚える。
「人の話を聞け、俺は出かけると言っている。」
そう言い、アキラの鼻をつまみあげる。
「やだ、いったぁ!」
常に艶を纏った憂いのある表情を持つアキラの顔が珍しく面白く映る。
「なんだその無様な顔は。」
くくっと肩を揺らしてシキは笑う。
「シキの馬鹿っ!・・ひどい、すごい痛い。」
離された鼻をさすり、頬を膨らませて睨む。
その膨らました頬をさらに指でつままれ、小さな口から息が漏れた。
その様子に、愉快そうにシキはアキラに声をかける。
「無様と言うかなんというか、たまには面白いことをするな、アキラ。」
「俺じゃないよ、シキがいじわるするんだろ、もうやだ!」
むくれてアキラはシーツの中に潜り、シキの足元まで下がって包まって動かなくなってしまった。
「何をしているんだ。」
返事がない。
「言えと言っている。」
シーツに包まっているとは言えども、シキの足元にもシーツがあるため、足先でつついてやるといやそうに身をよじらせた。
「シキがいじわるするから出て行かない。こっからいなくなるから。」
「ほう。」
それでこのおかしな行動に結びつくのかと内心苦笑し、少し付き合ってやろうと思った。
「いなくなるのでは仕方がないな。」
シキはアキラの包まるシーツの中を覗くと、頭を入れて隠しきれていない膝に舌を滑らせる。
「や、舐めんなよ。」
こっちは怒っているのにというように、アキラの咎めの言葉が発せられる。
「おかしいな。誰もいないはずだが?」
シキはアキラの言った言葉など聞かず、さらにシーツの中へと入り込み、背けるアキラの背中を唇で愛撫し始める。
「・・・・っはぁ、ん・・や・っ」
逃げようとシーツの中をもぞもぞと蠢くと腰を引き寄せられその掌が中心をなぞられ、肌をくすぐったく摩られる。
「やだ・・・くすぐったぃ・・」
クスクスと笑みを浮かべてアキラは制止しようとするが、シキの手は止まらず、それどころかシキがそのままアキラに覆いかぶさり、観念したようにアキラもうつ伏せで背けていた顔を、仰向けにして対峙した。
「見つけた、馬鹿が。」
愉快そうに至近距離で赤い瞳が細められる。
「ふふ、みつかっちゃった。」
うれしそうにアキラが呟くと、その唇を塞がれた。
「ん・・・」
体中が急に熱を持つように反応しだす。シキに求められると止まらなくなる暴走。
止めるつもりなどなく、その本能が動くまま、シキの中へと舌を入れ、そして自らも暴かれていく。
シーツの中で行われるその口づけは、互いの体温が上昇し、外気と境界を張られた布越しに熱気が篭る。
「ふたりきりみたい。」
こうしてると・・・・、と、その情交の合間に、掠れた声でアキラがうれしそうに呟いた。
挿し込まれる熱が歓喜を呼ぶ。
たまらずシキの頭を抱きとめ、その滑らかな髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す。そこから汗が滴る。
「ぁあっ・・・んっんっ・・・あは・・・・とっ・・・・もっとぉ・・」
シキはやっぱり熱い。
その体温を手に、指に感じて余計に昂ぶりを覚え、思考ももとから抜け落ちた理性も何もかも掻き消され、ただただその悦楽だけを欲するままに腰を動かす。
「あっあっく・・・っんふ・・・っう・・・っはぁっあっ・・」
飲み込むことすら忘れた唾液が口端から漏れ、シキの舌で掬い取られる。
潤んで少し焦点も覚束ない瞳がシキをみつめる。
「・・っと・・・シキ・・・・・ん・・ぇられたら・・いいの・・に・・っ」
微熱に冒された声が頼りなく泳ぐ。
―ずっとシキをここに閉じ込められたらいいのに・・・・。
「ん・・シキぃ、やぁ、も、もうっ・・シキっっ・・っあっぁあーーっ」
より強く腰の奥へと楔が穿たれる。
押さえつけられ、シキの首に、肩に、胸にすがりつき限界を覚える。
その瞬間、まるで一瞬にして脳も体も蒸発してしまうかのような錯覚。
「―・・っ」
吐精の解放感から自らを締め付けられ、シキも甘い眩暈を覚える。
「・・・・・それも、いいかもしれんな。」
低く掠れた声が、息も絶え、意識も混濁しつつあるアキラの耳にうっすらと響く。
瞳が合う。
「うん。」
うれしそうにアキラは頷くと、シキの腕の中で甘く居心地の良い空気に体を預けて瞼を閉じた。
ほのかに暖かいアキラのその柔らかい肌がまるで吸い付くようだと感じ、そのぬくもりにシキも体を寄せて、同じく瞳を閉じた。
・・・・・アキラの願いなど、すでに叶っているというのに・・・・どこまでもわかっていない・・・
そんなことを考えると、自然と笑みが生まれた。


fin

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