SS2

□秘密
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以前は大きな繁華街であったことを思わせる雑居ビルと今にも崩れ落ちてきそうな店の看板の群れ。
ひび割れほこりとゴミが被った年数の経ったアスファルトに、足音が響く。
後方を見ると、もう誰も追ってはこないと判断して足を止めた。
「・・・はぁっ」
疲労した肩で呼吸を整える。
上まであげていたジッパーを下げると、こもった熱が解放され、幾分か不快感が和らいだ。
先刻のイグラでタグを勝ち取ったものの、その相手の取り巻きと思われる者達からアキラは追われていた。
甘く見ていたわけではない。
しかし、思った以上に過酷だと実感する。
無期懲役か、このイグラへ参加し頂点に立つ。
どちらを取ったとしても、自分の命などこのアスファルトに散らばる無数の小さな瓦礫と一緒だ。
しかも、自分のハンデは大きすぎる。
この無法地帯で生きるには他者に欺き通さなければならない。
華奢な小さい体には少し大きいブルゾンを、胸元のあたりからギュッと皮生地を握りしめる。
自分が女であることなどけして知られてはいけない。
女が極端に少ないこのトシマで知られることが如何に危険か。
考えるだけで虫唾が走る。
「ケイスケ・・探さないと。」
追われる身からやっと解放され、本来の今の行動に戻る。
アキラを案じてきたケイスケを探していた。
仲違いし、姿を眩ましたケイスケ。
当てはなく、しかし自分の言動が起こしたことだ。それでも探し出さなくてはいけない。
雑居ビルの中に入ると、中は外装とは違いまだ骨組もしっかりしており探索しても大丈夫そうだ。
歩くと、以前はマンションか何かだったのか、朽ちた家財道具やすでにほこりと一体化した生活用品が床一面に散らばっている。
「いるとは思えない・・・けど。」
何がいるかもわからない建物を一人で探索するには少し心細いが、人と一緒では自分のことがばれないかと自然と言葉も少なくなり、緊張する。これまでその連続だったこともあったせいか、心細いというよりも、一人の方が気が楽であることの方が、今のアキラの気持ちは上回っていた。
奥まった部屋へ行くと、少し気になるものを見つけた。
「シャワー・・。」
簡単にしつらえられたシャワー室を見つけた。
蛇口をひねると水が出た。
「使えるんだ。」
少し興味が湧く。
このトシマに来てから、肌を出すことなどできなかったこともあり、まともに汗を流すことなどなかった為か水を浴びたい欲求が生まれる。
こんなことをしている場合ではないはずだが、それでもと悩む。
「誰も来ないみたいだし・・・・・いいよね。」
次にこんなところを見つけることができる保障もない。
都合の良いように解釈をしたとは自分でも思っているので苦笑いする。
周りを見渡して、少しきれいめなカーテンの切れ端を拾い上げるとほこりを落とし、タオルの代わりにとそばへ置き、ブルゾンを脱ぐ。
申し訳程度ではあるが、少しふくらみのあるシャツ。
完全に隠しきれない部位。
「小さくて良かったって・・・・まさかこんなところで思うなんてな。」
平均よりも小ぶりな胸を両手で下から持ち上げる。そのシャツを脱ぎ、下も脱ぐと丁寧に折り畳み、持ってきた椅子の上に置き、シャワーの中へと入った。
少し蒸したこのトシマで冷水は心地よく体に沁み入る。
「・・ふう。」
しばらく、瞼を閉じて水が体に弾く感触に耳を傾けた。
同じくして、アキラの入った建物に別の人間が足を踏み込んだ。
慣れた足取りで歩く。
「依頼も終わったし・・・・少し休んでから行くかな。」
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