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□刺青の恋
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その行いには情などというものはなく、ただの征服者の愉悦と、欲の成就だけがそこにはあった。
常にどこかしら引き裂かれる皮膚。致命的なものなどはなく、うっすらと薄皮に鋭利な鉤爪を立てられては、赤い血がしなやかなその肢体から滲み流れ、地面を汚す。
犯すことよりも、その切り裂く様のほうがよほど嬉しいと言わんばかりに満足気な表情を浮かべる。
「ぅ・・・っん・・・っ」
赤い線上の傷を入れられた胸元に、大きく舌を這わせられ、痛みがちくりと走った。
痛みなどとうに感じなくなるほどの情事の回数は重ねているはずなのに、けして薄らぐことはなく末端神経にまで痛みは走り抜ける。
くちゅっと、這わされた舌がさらにもっととせがむ様に血をすすると、グンジは嬉しそうに顔を上げた。
「痛いか?」
むしゃぶりついたその口元があられもなくアキラの血で汚されている。
なぜか脳の奥がズキンと少しだけ鼓動した。
どう観察したって痛いに決まっている。それでもなお痛いかと聞くのはやはりこの男、どうかしている。
アキラはムっとして無言で視線を返した。
それが面白くないのか、グンジは少し不満げになり生身の指で、今先ほどつけた傷をえぐるかのように押し当て、今度は自らの爪をたてた。
「痛いかって聞いてんだからさあ、答えろよ。独り言しゃべってんじゃねえんだ、ぞっと。」
裂かれる肉が悲鳴をあげる。
グンジの指が真っ赤に染まるがその汚れていく様がまた楽しいようだ。
「ん、ぐっぁ・・・ぃ痛・・・っも・・もうや、め・・っ!」
全身から脂汗が一気に流れ出るかのように熱を持ち、痛みによる涙がとどまることなくこぼれる。
「ふはっ、なぁんだ、ちゃんと痛ってえんじゃん?・・我慢するんじゃねえよ、ピルピルしててかぁわいいなぁ・・猫ちゃんは。」
痛みで荒立つ肺が呼吸を早める。その開けたままにされた口を、汚れたグンジの唇がふさいだ。
「はぁ、っんは・・・・っ・・ふ・・・んん・・・ぐ・・・っはぁ・・」
痛みの中に与えられる甘さが感覚を破壊する。
痛みなのか、痛みじゃないのか、快感なのか、恐怖なのか、悦びなのか・・・ここにあるのはどんな感情なのか。
「お前がさあ、死ぬ時ってどんな顔すんだろうなぁ・・・・ここ、ぐっちゃぐっちゃに爪でよぉ・・掻き回してやんだよぉ、どんだけ痛いんだろうなぁ・・たくさんの悲鳴と絶叫・・ミャーミャーミャーミャー叫んでくんねえと、なあ!」
熱を帯びた声で耳元で囁かれる予告。
ただの狂人の戯言などではけしてない。
グンジはいつかやるだろう。
自分の体を嬉しそうに、切り裂く。
痛みにもがいて、どんなに泣き叫んだとしても、それはこの男にとって、行為を昂ぶらせるだけの香辛料に過ぎない。
その日はいつ来るのだろうか。
その時、
(俺は・・・・・どんな俺なんだろう。)
未知なる痛みにぞっとする。殺されることへの恐怖は全身を一気に冷たくさせたが一方でくすぶる思い。
(俺が死んだら・・・こいつはどう、思うんだ。俺がいなくなったら・・・・。)
動かなくなった体。
冷たくなった、もう一言も発することが無い器。
それを、どんな瞳で映し出すのだろうか。
ほんの一握りでも悲しいと思ってくれるのだろうか。
それとも、
どうでもいいのだろうか・・・たかだか自分ひとりなど、玩具のひとつでしかないのだろうか。
「はぁ・・っあ・・・っ」
ねじ込まれる肉の熱が鋼のように体を裂き痛む。
くすぶりだしたはずの思考など一気に消えうせた。
「もっと、たくさん、たくさん傷つけてからだけどな。っじゃあねえと、面白く、ねえしっ。」
熱く滾った肉が体内を蹂躙する。引き抜かれる感覚がずるりと肉壁を擦り、また奥へと押し込まれる。そのたびに、痛みはじわりじわりと快楽へ昇華されていく。
「は・つあ・・・・あっ・・、や、あ、ぁっああ、あっ・・」
ゆすぶられるたびにグンジの体にしがみつき、背中を指が離さまいと泳ぐ。
「おら・・、もっとだ。もっと・・欲しがれよ・・・。」
「んっぅあ・・あ、っく・・・」
暴れだす体内の中心が甘くとろけそうに腰を熱くさせる。貫かれるたび、透明な痴液はプツプツと溢れて二人の腹を汚していく。
それを愉快そうにグンジは手のひらに掬ってその手でアキラの頬や、口元、顎の先までと塗りたくる。
「クハッ、ヒャハハ・・・!こんなにいっぱい垂らしまくってよぉ、猫ちゃん発情期でちゅか?淫乱だなぁ、ほんっと。」
「っ!」
嬲る言葉が自分を汚す。あまりの羞恥に瞼を閉じて視線をそらさずにはいられなくさせる。
しがみついていたグンジの背を離し、両手で顔を覆う。
「やだ、いや・・だ、こんなこと・・・もうっ・・・っあぁ!」
それは赦さないとでも言うように、グンジは強く挿入をほどこした。
最奥がさらにこじ開けられ、肉がよじれそうに蠢く。
「手・・離してんじゃねえよ。ほら。」
グンジが先ほどまでまわされていた背中に指を当て、そしてその指をアキラに見せ付けた。
赤く、濡れている。
「俺の血、すげえ赤ぇ・・・猫とおんなじ・・?」
知らずうちに、引っ掻いていたアキラが与えた傷だ。
それをうっとりとグンジは眺めてそしてそれもアキラの顔へ塗りたくってやる。
「もっとさあ、お前の爪でさあ、傷つけてみろって。」
「・・っやぁ、は、あ」
確実に感じるそこを執拗に攻め立てられ、羞恥で身を隠すことも、グンジを罵倒することも何もかもがショートし、呼吸とあふれ出る嬌声の乱律がアキラの全てとなる。
自分と同じ赤い血。
そう言って笑ったグンジになぜこんなにも全身が蒸気するのか。
熱く火照て吐息となって気化される。
「ああっあ・・ぅん・・んっ」
強い快楽が今まさに来ていると先の神経にまで伝達され、グンジを抱きしめる指がグンジの皮膚をえぐる。
情交の中に血の匂いが充満していく。
「っ・・出すぞ・・・・っ」
のけぞった顎から苦悶が漏れる。
その表情が視界を掠めると、熱病にでも冒されたかのような眩暈がした。
「んん・・・っあ、ぅ・・・んあっっ」
「っ・・!」
グンジの吐精にほどなくしてアキラも達し、荒く乱れた呼吸の連鎖と、飛び散った白く濁った体液だけが残った。
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