SS3

□淫靡病棟24時
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遠征が立て続けに起きていたこと、天候が不安定だったこと、原因をあげればきりがないが、なってしまったものは仕方がない。
城で部下達に囲まれたシキが大きく溜息を吐いた。
立っているだけで眩暈がする。
息を吐くだけで嘔吐感がする。
そしてゾクゾクと背中を包む悪寒。
明らかに風邪の症状だ。
公務を軽くこなし、シキは自室に戻り早々に休むこととした。
「シキ、おそかったね?」
部屋の前で仁王立ちで不機嫌そうにアキラが立っていたのだが、今は相手をするほどの余裕など全くない。
喋ることすら億劫で、シキはアキラの頭を撫でただけでベッドに突っ伏した。
「シキ、ねえ、ねえってばぁ。」
「ふぐっ!!!」
うつ伏せで突っ伏した上にアキラが馬乗りをしてきた。
普段なら何ともないだろうが、今の状態で乗っかられたらたまったものではなく、内臓やらなにやらを吐き出してしまいそうでシキは苦悶した。
「よせ・・・貴様・・・殺す気か。」
「え?あは、殺すのは、シキの方だろ?うんと、し・て。」
アキラを払い落としてシキはベッドの片隅に避難をした。
「どこでそんな言葉を覚えた!・・・全く・・・・・、今夜は具合が悪いから、寝る。ちょっかいだしたら本気で首絞めるから覚悟しろ。」
わざと怯えるような脅しをかけて、シキはそのままシーツに包まってしまった。
「シキ・・・・?具合、悪いの?」
アキラの声にシキは反応しない。
「・・・・・・苦しい?痛いの?」
アキラの声が哀しそうに響く。
「・・・・。」
正直返事をすることすら厳しく、無言が続く。
「もがき苦しむの?・・・・それで、死んじゃうの?」
「何故悪いほうへ行く!?死ぬの?って勝手に殺すな!!!」
バンっと上半身を飛び上がらせてシキは鬼の形相でアキラに怒鳴りつけた。
その姿にアキラは一気にシュンと眉を落として泣きそうな表情になった。
「ごめんなさい・・・・。」
背中で小さく鼻をひくつかせる音と、震えた呼吸音がする。
「・・・・・。」
シクシクという音がとても似合うその背後の様子にどうにもいたたまれない気分に陥る。
どうしたものかと思ったが、いかんせんそれどころではない。
どうせ気まぐれの感情なのだから、ケロっと忘れるだろうことに気を咎めなくても良いとはわかっている。
わかっているのだが・・・・と思っているうちに、背後のドアがパタンと音を立てた。
「・・・!?」
アキラの気配がしない。
静かなことはいいのだが、アキラが自ら外に出ることなど無く、不審に虚空を見つめる。
それにしても静かだ。
寝よう、そう思っていると、今度は豪快にドアを開ける音がした。
「シキ、お待たせ!」
お待たせと言われても待った覚えはない。
嬉しそうな声にシキはアキラへと振り返ってみる。
「何だ・・・!?その格好は!」
ぴったりとしたライン。
固めの生地に浮かぶ胸の突起の皺。
ワンピースのようにストンと落ち、腿の大分上までしかない丈の布地。
薄ピンク色の服と同じ色の、頭につけられた、そう、病院へ行けばよく見るナース帽。
・・・・・・・どう見ても、ナースの服を着て嬉しそうに立つアキラがいるではないか。
「今晩は、シキの看護婦さんになってあげる。」
「・・・・かんご、し、だろ。」
青ざめた顔でシキはアキラをじっと睨みつける。
「細かいことはいいよぉ。ねえ、じゃあ、お熱測ってあげるからね。」
そう言って、アキラはシキの上に跨った。
おもむろにシキのボトムのベルトとファスナーを寛げ、アキラは自身の太腿に這うワンピースの裾をそっとたくし上げ、わざわざ穿いてきたのかパンストを少し下げると、柔らかな肉の谷間を指で押し広げる。
「はい、お熱・・・中に出して・・・。」
「この馬鹿が!!!!」
間髪入れずシキがアキラの頭を叩いた。
「ピンサロみたいなことしおって!気分が悪いと言っているだろうがああああ!」
予告したとおりに、シキはアキラの首をぎゅうぎゅうと締め上げた。
「か・・けほ・・っ、ごめんな・・さぃっ!」
そのままベッドから放り投げだされ、アキラはまたシクシクと泣き出した。
シキはまたそっぽを向いてベッドに横になってしまった。
「シキ、ごめんなさい・・・ごめん・・・・。」
懲りずに近寄ってきたアキラに、シキはこれ以上近寄ったら殺すといわんばかりに睨みつけてやる。
「・・・・?」
赦しを請おうと泣きつかれるかと身構えたが、予想は反れ、アキラのひんやりとした小さい手がシキの額に手を当てた。
「あっついね。」
心配そうな声でアキラが小さく囁く。
「音、きかせてくださいね。」
まだナースごっこのつもりなのか、聴音器のないアキラはそのままシキの胸元へと耳を当てて目を閉じる。
「いつもと違う・・・風邪引いちゃったのかな。」
アキラは立ち上がり、手身近にあったタオルを冷たい水差しの水で濡らす。
「はい。」
額に当てられたタオルがとても冷たく落ち着く。
「今日は随分と気が利くな。」
シキの言葉にアキラは嬉しそうにまんざらではない返事をする。
「だって、俺は、シキだけの看護婦さんだもん。」
当たり前だろ、とでも言うように笑う。
「今、お薬もらってくるね。」
そう言い、シキの制止も聴かずにまた廊下へ出ようとした。
「おい!」
「・・・なに?」
一抹の不安を覚え、言葉にする。
「くれぐれも気をつけろよ。」
アキラ単体でもこの城中の野郎共を骨抜きにしているのだ。
今のナース+アキラで狂わない人間がいるだろうか、いやいない。
体調がすこぶる最悪だから今のアキラの姿を見ても何も感じない、いや、感じてはいるのだが行動に移すほどの気力などないシキだが、これが通常なら、・・・・とんでもないことになる。
「・・・?わかった。いってくるね!」
ぼろぼろに汚されて帰ってくるのではないかと危惧していたが、そのような心配など必要も無く、数分でアキラは薬を持って帰って来た。
「はい、お薬。」
アキラは薬を自分の口に含み、水を流し込むと、シキの唇へと移し込んだ。
「シキの中もあっつい。」
唇を離し、うっとりとアキラが呟く。
このまま、押し倒し→とりあえず穿いてるパンスト(丁寧に黒をチョイスしている)を裂いてみる→ふん、貴様の方が熱いな・・・というルートもあながち悪くないのだが、そんなことをしてしまうと、本気で腹上死しかねないため、自身のこの肉体の弱さを深く憎むしかなく、シキは無言で目蓋を閉じる。
アキラがまた何かをしている。
もうこれ以上は無いだろうとそう思っていた矢先。
「っあ・・!」
バシャアアアアアと盛大に水が漏れ零れる音を耳にする。
「・・・なんだ?!」
シキが異変に体を起こすと、哀しそうに空になった氷枕を抱きしめ、全身水浸しになっているアキラがそこにはいた。
ピチャンピチャンと落ちる水滴の音がより悲壮感を増強させる。
「ごめんなさい・・・・。」
何度目かわからない涙を瞳いっぱいに浮かばせている。
服はすっかり濡れ、体に張り付き一層アキラの体の線を浮かび上がらせている。
「全く・・・・お前はどうして・・・・。」
シキの落胆の声にアキラはしゃくりをあげて零れ流れた水をふき取ろうと小さく床へと体を屈める。
「俺、シキの役に立ちたかったんだもん。・・・でも、何にもできなくて、ごめんなさい。」
ここまでくると、合格点としか言いようが無い。
あまりの空回りナースに、シキは小さく笑った。
「何をしている、早く来い。」
アキラに声をかけ、アキラはきょとんとしながらシキに言われたとおり、シキの傍へと来る。
すると、手を引かれ、そのまま抱き寄せられる格好になった。
「・・?」
「丁度良い氷枕ができた。このまま寝る。お前は大人しくしていろ。」
そう言うとシキはアキラを抱きしめたまま目を瞑った。
嬉しそうに頬を上気させ、アキラも共に目を閉じた。
「おやすみ、早くよくなってね。」
言われたからには早くこの体調を治しておかねばと強く念じる。
シキは最悪な具合と不調の中、ただひたすらお医者さんごっこについてだけを考えるのであった。


END

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