連載

□第二話
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「失礼します。」
声をかけるが、部屋からは反応が無い。
「失礼します!」
接客とは程遠い叫び声をあげてみた。
…。
反応がない。
致し方ないと、扉を少し開けると、ほぼ半裸の男が、浴衣に袖を通して、いや、通したままで襟を掴んで呆然としていた。
「ちょ…、お、お客様?いるなら返事してくれないと…。」
男はアキラを見つめたまま動かない。
「?…ご注文いただいたもの、お持ちいたしました…。」
「…イチゴ…」
「!…っ」
もうすでに単語だけで真っ赤になった。
男は、ふらりとアキラの目の前に立つと、
「え、あ……、ちょっとまてえええ!?」
いきなり男はアキラの着物の襟に手をかけ、ぐいぐい剥きだしたのだ。
「…。」
男は何も言わず、ぐいぐいと引っ張り、アキラは遅れて抵抗するが、乱れた着物を踏ん付けてしまい、体のバランスが崩れた。
「うっ!」
そのまま後頭部を強打し、男が覆いかぶさる恰好になる。
剥がされた肌から小さくくりんとした乳首が顔見せた。何を思ったのかペロンと舐めあげられる。
「や、あん!」
思わずあげた声が急に羞恥を覚える。
「っ…、いやだ…っ。」
何をされるのかと一瞬、冷や水を浴びたように背筋が寒くなる。
「…なるほど。」
いきなり男は納得しだし、アキラをほっとき自分の浴衣の着付けをしだした。
「…え?」
拍子抜けをしたのはアキラだ。
まさか、着付け…?
男は、アキラを見ると、手を差し延べて急に抱きしめた。
「ありがとう…、イチゴの人。」
「…俺はそんな名前じゃない、アキラだ!」
着物の乱れを直しつつ、気恥ずかしさを紛らわしているのが面白いのか、男はくくっと喉を鳴らす。
「俺は、n、ナノだ。」
「…ナノ……。」
壁ごしにいるアキラにナノが近寄る。
先程から挙動不審の彼だが、なぜか不思議と気持ちがふわふわする。近寄られると、吸い寄せられる。
「アキラ、また、来てくれ。」
「……ぅん…。」
近づく瞳。
掴まれる肩。
肌ごしに感じる呼吸。

…どれもが嫌やではない。

ゆっくりとナノの顔が近付く。「…っあ…。」
キス…されるかと内心、一瞬でも考えてしまった。
キスはキスだが、
左耳がチュっと乾いた音を記憶させた。
頬に優しく、触れるだけの。
「アキラ…。」
ナノの唇が自分の名前を刻むだけで、脳がショートしそうだ。
その唇が、さらにアキラの唇へと近づいた時、


「ちょいと失礼します!」
若女将エマが、引き戸をストーンと開けた。
アキラは凍り付いた。
「あらあらあらあら、申し訳ございません!うちの従業員があ、あ、違いますねえ、汚い泥棒みたいな猫が入り込んでしまってぇ!」
口は笑っている、いや、目も笑っている。
でも、ものすごく怒っている!エマはものすごい力でアキラの首根っこを掴み、通路へつまみ出した。
「ナノったら!だめじゃない!あたしがここにいる間はお世話するって!」
もう!とエマは言うがナノは気を留めず、ポツリと呟いた。
「…アキラは猫なのか…。…イチゴで猫で…アキラ…。…、ふむ、かわいいな。」
「はい?!」
何をどう組み合わせて納得させたのか、ものすごく満足した顔をさせた。
(絶対、アキラを追い出してやる!)
エマは心に誓うのであったが、アキラも、
(やばい、このままでは追い出されてしまう!)と青ざめた。
アキラの恋はどうなっちゃうのおおお?



続くOTZ
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