連載

□第九話
1ページ/2ページ

そこは、金で出来上がった茶室と美少年の大理石製裸像が立ち並ぶ悪趣味極まりない一室。
言わずと知れたアルビトロのプライベートルームである。
「大女将〜!聞いてるんですか?!」
たたき付けたテーブルは勢いよくバウンドし、湯呑みが盛大に床に落下した。
エマが握りこぶしをテーブルにつけたまま大女将アルビトロに詰め寄る。
アルビトロに大人しく身を擦り寄せていた狗が怯えて縮こまる。
「かわいそうに、ああ嫌だ!狗がこんなに怯えて!!」
エマは話をきかないアルビトロにさらにピキピキと血管を浮き上がらせる。
「あんな使えない子を置いて!この旅館の格を下げるおつもりですか!?」
「けれど女将、狗がアキラを気に入っている以上、クビにするわけにはいかないのだよ。」
「じ、人事は狗次第ですか!!……もういいです、わかりました!」
話をしても埒が明かないと判断したエマは憤慨したままプライベートルームを出た。
他の従業員達は戦々恐々とエマを見ては自分に怒りの矛先が来ないようにと避けて歩いた。
(くっ!使えない!目障りなだけならまだしも!私のナノに手を出して…っ!ホントマジでアキラムカつくわ!……っああ、ナノ…キュン。)
怒ってんのかときめいているのかよくわからない気持ち悪い顔を浮かべる。

そんな中、一人運が悪すぎる人間がいた。
しょんぼりと歩くケイスケだ。「はあああああ…、アキラ、どこいっちゃったんだろう…。やっぱり怒ってるよなあ…、アキラ…もしかして、俺のことをもう、……はああああああああ…ど、どうしよう……っ!」
一人青くなっていたため、エマの視線に気付かなかった。
「ケーイースーケええええええ!!」
暗い炎をユラリと纏っている。
「ね、ねえさん……っ」
「お前が悪い!!アキラをなんとかしろおおおおおおお!」
「う…ぎゃああああああああっっっ!!」
エマはケイスケに飛び掛かった!
ケイスケはエマの猛襲を受けた!
ひとしきりボコボコにしてやると、手をパンパンと払う。
「フン!あんた、これ以上へたれすぎると別の人間にアキラ取られちゃうわよぉ?」
エマはそう言い捨てると、少し気が晴れた様子で去った。
(…取られる…?)
ズキリと言葉が刺さった。浴場でのアキラのあの知らない客に対する態度。
「だめ…だ…。」
そんな顔したら…。
(アキラ…だめだよ…、俺以外にそんな顔しないで…。)
噛んだ唇は破れて血が滲んだ。(このまんまじゃだめだ。)
どうしたらいいかなんて、いつもいつも考えてる。
漆黒の夜が、ケイスケを染めていく。
(アキラ…。)
着物を着たアキラがふと顔をあげた。
「…?誰か呼んだ…?」
周りを見渡すが誰もいない。
アキラは新館を抜けて自分の部屋がある旧館へと歩いていた。
「あ!いったあああああ!ねっこちゃああああん!めちゃめちゃ探したずぇえええ!」
どでかい声をあげ、グンジが抱き着いてきた。
「っ!グンジが呼んだのか?」
びっくりしたがアキラだったが、アキラとケイスケ、そしてグンジの3人は幼なじみだった為、小さい頃から破天荒なグンジのコミュニケーションには慣れたものだった。
「お前、いい加減その呼び方だけはやめてくれないか?」
少し赤くなりながら、グンジを剥がす。
「ネコちゃんさあ、ご飯せっかく作ったのにいねーんだもん!」
「あ、忘れてた。」
差し出されたご飯はまだ暖かい。
「ヒャハハハ!ネコまんま!」
「…あのなあ…、サンキュ。」
それはアキラの好きなオムライスだった。
しかしそれにしてはどでかいオムライスだ。
「でかくないか、これ?」
「だって俺の分も入ってるもん。」
「一緒にしちゃったのかよ、仕方ないな。冷めるから俺の部屋で食おうぜ。」
アキラがクスリと笑った。
グンジも嬉しそうにニヤっとした。そんなグンジを見ると、いつもアキラの胸に熱い刺がひっかかる。
今日こそ…と、アキラは質問をした。
「…なあ、グンジ?」
「ああん?」
「あ、あの……。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ