06/04の日記

22:21
EDEN REJECTION 23
---------------
それから、彼はどうしたのか、どうなったのか。
アキラは聞くことはなかった。
当に興味を無くしたのだと思い、シキから伺いをたてることもなく、次の遠征の身支度を整える。
「ん・・・・。」
眠っていたアキラが身じろぎをする。
「シキ・・・・?」
すぐ肌に感じる距離にシキがいないことを察知し、アキラが飛び起きた。
「また出る。」
シキはそれだけを発した。
アキラが嫌がるのは毎度のことだ。何も今に始まったことではない。
特に相手をすることもなくベッドを離れると、アキラが強く縋り付いて来た。
「やだ!いっちゃやだ!」
絶叫ともとれる声が室内に響く。
「離せ。」
力任せに顔を横に振り回す。
「何で、いやだよ、一人にしないでよ、シキ、ねえ、どうしても行かなきゃだめなのか?」
今までのごね方と様相が違い、シキは眉を潜める。
「聞き分けろ。しょうがない奴だ。」
頭を撫でてやるが、それで満足などしない。
我儘を言っているといういつもの感じがしない。
まるで、怯えたような振る舞いだ。
「・・・どうした?」
本当に泣き出しそうな顔をしているのでつい聞いてみる。
「・・・ぃ。」
搾り取るような声を呟き、繰り返す。
「怖い・・・。怖いよ・・・・。」
シキの胸へとしがみ付く。
「何が怖い?」
答えない。
(埒が明かない。)
アキラの我儘を聞いてやるほどの時間も無ければ、そんな無駄な感情も無い。
「ねえ、シキ。俺は、シキの物?」
今更何をと思ったが、そうだ、とだけ返す。
「一人でいるのは怖い。」
シキの言葉に安堵を少し見せ、そして、ぽつりと言葉を落とす。
「俺は、物なのに。シキの物なのに。」
取りとめも無いアキラの言葉に不審を抱き、アキラの眼をシキへと向かせる。
「怖いと思うなら、感じるな。何も見るな、聞くな、・・・アキラ、お前は、俺だけを見ていればいい、俺だけを。」
シキのその支配する眼差しに取り込まれる。
そう、シキの言うことは絶対だ。
シキがそうしろと言う。だから、そうすればいい。
「そう遅くはならん。いい子にして待っていろ。」
そしてシキの手が離れる。
ぬくもりが、消える。なくなる。
シキがそうしていればいいと言うから、一人瞳を閉じ、ベッドに沈む。
シキがいない世界は、見ない。
体に残る暴力の痕を指でたどると痛みを感じる。自分に唯一残された、シキの感覚だけを頼りにする。
「・・・・っ。」
一人は嫌だと言ったのに。
嫌な心臓の音だけがとくとくと聞こえる。耳をふさいでも、音は消えてくれない。
そして、一人だ、考えてしまう。
「・・・だめっ!」
物が考える必要なんて必要ない。
アキラは制止の言葉を吐き出す。
それでも言葉が蘇る。何度も。
『ケイスケは生きてる。』
殺してしまった、だから、それはどうにもならない罪だから、どうにもならない罰で生きていくしかないと、決めたのに。
殺したはずの感情がそこかしこで芽生えそうになり、押し込める。
ケイスケが生きていたら、ここにはいなかった自分と、それでも、シキを愛して仕方が無い自分、そして、どうにもできない自分達がせめぎ合う。
源泉の残した言葉の通り、もし、将来ケイスケが目の前に現れたら・・・・・自分は?
もう、何も感じないと思っていたはずの心が、こんなにも動揺している。
不安になる。
「だって・・・・。」
一人小さく苦痛の声をあげた。
あんなに、助けたいと思っていた人を。
優しくしたかった人を。
(もう、手遅れなんだよ・・・。)
それだけ深くシキを想ってしまう自分に暗く眩暈を覚える。
こうして我に返り、己の残酷さを、身勝手さを鮮明に見せ付けられるのが怖くてならない。
何て残酷なのだろう。
あの、困ったような笑顔をする幼馴染を、あの時初めて忍び込んできた男と同じように殺すのだ。
物だから。
誰のものでもない。シキの所有物だから。
そして、何も、感じなくなるのだろうか。
苦しんで、とても苦しんでから。
ならいっそもう、苦しいのも、辛いものも、嫌だから・・・・今すぐシキに消して欲しいのに。
今よりももっと、こんなに揺らぐこともなくなるほど壊して、シキだけに全てを捧げる物にして。
「シキ・・・、怖い・・・。いてよ・・そばに・・・。」
小さな痛みの欠片がこれ以上、大きくならないように。

前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ