06/29の日記

22:21
EDEN REJECTION 25
---------------
「まだ、痛む?」
先日撃たれた肩を撫でてアキラはシキへと顔をあげた。
「大したものではない。」
「でも、まだ・・・赤い。」
傷はすでに処置はしているが、だからといって大人しく収まっているような男ではないことは重々承知している。
キスを止めて、留めていた包帯をアキラは緩めだした。
「遊ぶな。」
悪戯を考え出したのか、アキラはシキの言葉など聞かず、無心で包帯を解いていく。
露わになった傷は、ほんの僅か赤く濡れているだけで、さほど開いてはいなかった。
「ん・・・。」
舌を這わせる。
シキの味。
相反する血を持つその感触はまるで感電したかのように、チリチリと舌を焦がす。
それがとてつもなく心地良い。
「あまり、好きじゃない。・・・・知ってる人がいなくなるのは。」
ぼんやりと、アキラは懐古する。
「・・・・・。」
先日のことを言っているのだと、シキにはすぐにわかった。
「そんなに大事だったか。」
「だいじ・・・・・。」
シキの言葉を反芻し、アキラは小首をかしげた。
「シキ以外にそれは必要?」
上出来な答えだ。そう思うが、アキラはどこか違うことを考えている。
「っあ!」
不意に頭から振り払われ、ベッドの脇へと体が沈む。
「じゃあ、未練でも残っているか。」
言われて、アキラは目を丸くした。
「何もせず、ただ見ていただけの貴様が未練か・・・・呆れるにもほどがあるな。」
「ちがう・・・。そうじゃ、ない。」
きちんと、目を開けとあの人は言った。
けれども、
「俺は、何も見てなんかない。」
張り倒されたことなど構わず、もう一度アキラはシキの元に縋りついた。
そして、傷に触れる。
「他の何かを見るのは怖い。怖いのは、嫌だから。未練とか、そういうのを感じるのも嫌だ。だから、目を閉じるんだ。何も、見えなくていい。シキしか見なくていいから、目を開ける必要なんて、無い。」
アキラのシキしか映さない瞳は純粋そのものだ。
外の世界に対してどこまでも暗い盲目と化し、シキにしか見えない光を宿した目。
「けど、俺以外の誰かがシキに触ったり、傷つけたりするのは、もっといや。」
そう言うと、僅かに開いた傷にいきなり人差し指をねじりこませた。
「・・・っ、おい。」
さすがのシキでも、顔をしかめる。鈍く熱い痛みがせりあがり、アキラの腕を掴んだ。
鉄の匂いが漂い、アキラの指先が赤く汚れる。
「っふふ、あははは、やったぁ・・・・!」
まるで子供のように笑い、そして喜ぶ。
そして、大事そうに指を頬に擦りつけ口に運ぶと、ドクドクと脈打ち始める傷口に口付けし、頬を当てた。
「あのね、俺だけなんだ。シキの物は。だから、他の人がおオイタするのは許せない。それが誰であっても。・・・・知ってる人とかが死んじゃうのは哀しいけど、でも、でも、それ以上に、今は許せない。」
夢見心地のようにアキラが囁く。
その言葉に、
(何故だ。)
シキは一人動揺する。
アキラが自身へ奈落まで堕ちている、全てを支配していることをまざまざと感じる。
当然のことである。
そうなれと、人間性も理性も何もかも剥ぎ取ったのは自分なのだから、アキラの導き出した答えはごく当たり前のことなのだ。
それなのに何故、
(安堵・・・する必要がある。)
自問しようが、答えなどどこからも出てこない。
そして、つい今の瞬間まで覚えていた感情にも、意味を見出せないで入る。
何故苛立ちなど・・・。
「シキっ?」
シキの体に身を任せていたアキラをシーツへと沈ませ、繋ぎとめる。
けして逃げ出すことも抵抗することも無いはずのアキラの腕を、しなるほどに掴み上げ縛り付けた。
「ひ・・・っぃ・・・!」
傷をつけられた箇所と同じところに、シキは歯を立て、そして力任せに抉る。
熱い。
熱くて仕方が無い。
抉られた傷は醜く裂け、泡のように血が溢れかえる。
痛みにもがき、血を垂れ流すアキラにこの上ない甘美さを覚え、欲情を感じる。
「同じ痛みをくれてやる。嬉しいだろう?」
そして、再度歯を立てる。
シキの口元が赤くアキラの血で染まる姿を見て、それだけで達しそうになるほど、痺れ戦慄いた。
「ぅん、うれしい・・・。」

前へ|次へ

日記を書き直す
この日記を削除

[戻る]



©フォレストページ