07/07の日記

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EDEN REJECTION 27
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夢を見る。
夢は、どんなに拒んでも世界から目を逸らさない、そうはさせてくれないようにできている。
そこに映し出されるものは、これまで生きてきた中での記憶。
たくさんのものを映し出す。
そして現実に浮上する時には全てが溶けて消える。
シキに出会う以前は、それだけのものだった。
多少の苦しみを覚える夢もあったが今はそれが何だったのかも思い出せることはなく、そして見ることもなくなった。
夢を見ている。
夢は目を醒ましても、忘れることなく脳にその記憶が留まったまま、残る。
薄汚いビルと、曇る空。人がひしめき合う熱風。
彼らは自分を囲み、歓声をあげる。トシマと同じような光景なのに、人の活気がある。
ああ、とそこがトシマに来る前に住んでいた場所だと認識する。ドサリと、背後に圧し掛かった重量を滑らせるような感覚で投げ飛ばす音がした。そして、静かな呼吸の中でしたを見ると、自らがなぎ倒した男が眼下にいる。
そこでピタリと聞えていた音が消失する。
ビルの形もわからなくなるほどの暗闇にいつの間にか囲まれている。
しかし、ただ暗闇が広がっているだけではなかった。
自分の周りには夥しい数の人の形をしたモノがいくつも、埋め尽くすように転がっている。
血みどろになっているモノもあれば、首の無いモノもある。
知っている顔もあれば、知らない顔もある。
知らないのではなく、きっと覚えていないだけなのだろう。
これらは皆、目の前で死んだ骸達だ。
罪悪感を感じることなど無い。
いつか人はこうなる。
それが、早いか遅いかの違いだ。
己もいつかこうなる。
シキの刀で。指で。
けれども、殺されたその後は、ここに落ちているガラクタ達と同じに捨て去られるのだろうか。
無用のモノとして、何の愛着も無く。
あんなにも他人に貪られることに対してきつく嫉妬をしているのに、それでもいらなくなれば放られてお終いなのか。
それで、自分はお終いなのか。
だから、シキをいつか殺したいのか。
そう、なのか?
そうかもしれない。
なんとも卑屈。醜い。けれども、肯定する。それが、アキラの本質なのだと、死体の山を見て震える。
自らその皮膚を剥ぎ取り、内臓まで晒し、それだけ全てのものを捨てられたところには、こんなにも大きい想いがある。それを無かったことになんかしたくないと願い震える。
シキがそう躾けたからではない。結果論として言えばそうなるかもしれないが、結局は自分の意思だった。だから、望むままの物でいられる。
捨てろと言うから、捨てた。
感じるなと言うから、何も感じない。
見るなと言うから、見ない。
そこまでしてでも、ずっと欲しかった。
狂うことになってまでも、ずっと。
殺すか、殺されるか。
その時に得ることができるものを、ずっと求めている。
殺された時は、物として機能しなくなった自分を、このごみの山から抱き上げてくれる彼を、求めている。
殺した時は、永遠に自分が朽ち果てるまで彼を抱きしめて上げられる。そのいつかは朽ち果てる有限の永遠を求める。
道は違うが、その奥にあるものは同じ。
けれども、確実に得られる可能性は、後者だ。
そして叶うことが難しいものも、後者だ。
歩くたび、ガラクタの感触が足に伝わる。
避けて歩く術などなく、その液体にも近い柔らかさに吐き気を催すほどの嫌悪感と寒気に襲われる。
見たくないものを見せられる。
見せられれば、見せられる度、思い知らされる。
「・・・・っ!」
踏み出したつま先が止まる。
少しそれに触れると、すぐさま気づいて留まるが足場が安定せずに尻餅をつく。
踏んで歩き続けることなんかできやしない。
それでも、歩くしかないのだと叱咤する。
選んだ道を。
「・・・でき、な・・・。」
目を閉じて、彼だけしか知らない自分でいたい。
これは、見てはいけない。
「・・・・・・できない・・・・。」
今までどうとも感じなかったではないか。
自分から陥れ、殺された、否、それが例えシキの刀だったとしても、殺したのは自分だ。
時には憐れみ、嗤って殺した人間はこの足で踏みつけて歩いてきたのに、どうしてこれだけはできないのか。
震え、涙が零れ落ちる。
「・・・い、ごめん・・な、さ・・・い・・・・っ」
懺悔を繰り返す。
それでも、歩行かなくてはいけないことを。
誰が見ても間違った、狂った道だとしても。
シキがそう選ばせたのではなく、これは自分が決めた道だから。
あの雨の日、苦しんで倒れたあの姿で、目の前に横たわるケイスケに懺悔する。
『目ぇ開けとけ』
源泉の言葉が何物にも遮られずにアキラの耳を打つ。
見える、自分の汚れた手が。
聞える。自分を呪う声が。
『ケイスケは生きてる』
いつか、対峙することになるヴィジョンが見える。
そして、己自身を思い知らされる。
一番見たくないものを、思い知らされてしまう。

ほんとうは、くるってなんかいない。

本当は、アキラはアキラのままなのだ。
だから怯える。
だから恐怖を覚える。
だから、シキが望む姿でありたいと思う。
狂うことなど簡単だ。
見なければいい。
感じようとしなければいい。
もっと、簡単なことは、ただ愛する人のことだけしか考えなければいい。命すらも賭けて。
それでも正常な感情が己を嫌悪する。
自己満足のためだけに葬り去る命を見なかったことにする己に吐き気がする。
頭を血と腐肉で汚れた地に落とし、手を着かせ懺悔を繰り返す。
「ごめんなさい。」
許されないことだと思う。
いつか出会う時、きっと彼は自分を殺すために現れるだろう。それでも、殺されるわけにはいかない。
「・・・ごめんなさい・・・。」
シキを殺そうとするかもしれない。けれどもケイスケを助ける理由が、もう、どこにも無い。
そして、シキを殺させるわけにはいかない。
自分はシキのモノで、シキは、・・・・・。
「俺だけの、ものなんだ・・・・。」
痛みと苦しみで埋め尽くされる。四肢がばらばらになりそうなほどに暗闇に飲み込まれる。
夢が終わる。
この記憶と、感情と痛みを残したまま。

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