07/14の日記

09:02
EDEN REJECTION 33
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「アキラってさ・・・。」
ケイスケがふっと笑って話しかけた。
「いつもなんか言葉が少ないし、でも何でもできて、でもどこか冷めてて・・・小さかった時とかって、なんだかそれが大人っぽくてすごくかっこよくみえたんだ。うん、俺はそんなアキラに憧れてたんだ。」
ケイスケの目に映るアキラはだいぶ痩せて髪も伸びて、弱弱しくさえ見える。
変わったのは、それだけじゃないと把握する。
「今でも、変わらないよ。」
目の前にいるアキラは、そんな憧憬とは違う目をしていた。
冷めていたはずの眼差しは切ないほどひたむきで、熱を帯びている。
どれほど長い間傍にいても、けして見ることがなかった色をしている。
自分ではなく、違う人間のために。
「俺は、変わった・・・お前が知ってる時の俺じゃない。」
ケイスケは顔を横に振る。
「変わってないよ。・・・俺は知らなかっただけなんだ。」
一瞬だけ、こんなひたむきな目を見せてくれたことを鮮明に思い出す。
ラインで狂った自分を止めようとした時だ。
あの瞳が、今は違う理由を持ってアキラに熱を宿す。
「アキラは何にも変わってない。本当は持ってたんだ。だけど、それを見せる必要が無かったから、だから、俺は知らなかっただけなんだよ。」
寂しく笑う。
優しさに付け入って見逃してほしいなどとは思わない。
ひどく心が揺れる。
「シキを、殺す?」
すまなそうにケイスケは頷く。
「譲れない。・・・・アキラが止めても、これは。これは、俺の私怨だから。」
アキラの前で軽く構える。
「俺は、アキラを傷つけてでも止める。奪われたものは、奪い返す。それだけの理由で今まで来たんだ。」
ケイスケは振り切るようにさらに深く構える。
「アキラを奪い返すよ。」
ごめん、とでも言うように、あくまでも声が優しくアキラに響いた。
アキラはシキを見る。
拒絶も肯定もしない視線。
だから、もっとその色が映えて見える位置にいきたい。
もっと、もっと傍に。もっと触れられる距離にいきたい。
ここでは終わらせられない。
刀を振るうだけでもやっとの自分に何ができるのかと思うと笑えてくる。
そして、こんなことの為に、今目の前でこんな自分を肯定してくれる理解者すらも、今は邪魔だと思えてしまう。
あまりにも自分勝手が過ぎている。
愚かだ。
そんなこと、わかっている。ずっと。
だから、後悔はしない。
自分さえ良ければそれでいい。
「ケイスケ!」
アキラが足を床から離す。
その刀がケイスケの体を切ることはなく、交わされる。
それをわかっていて、アキラは腰に潜ませていたナイフを取り出す。
ケイスケは、そのナイフが見覚えあるものだと凝視した。
唯一、シキに捨てられることなく傍に置かれていたナイフをアキラは手にし、そしてケイスケの中へと飛び込み、アキラはしまったという顔をするが、それでも止められない。
ケイスケにとっては、太刀を浴びせるには絶好のタイミング・・・だった。
「・・・・っえ・・・。」
ナイフは簡単にケイスケを貫いた。
回避するどころか、切られていてもおかしくなかったはずだった。
「どうして・・・。」
ケイスケにナイフを突き立てたまま、立ち尽くす。
「・・・駄目だな、俺。やっぱり・・・好きなんだ。」
膝をがくんと落とし、傷口に手を当て、出血を確認する。
偶然とは言え、これではもう駄目だとケイスケはその刺さった箇所を見て小さく溜息を吐いた。
「好きな人を傷つけるとか、俺やっぱりできないな・・・。」
アキラを見て、少し苦しげに眉を寄せてケイスケは笑いかけた。
「・・・・。」
泣いてはいけないと思った。
これが、自分の行く道だ。
苦痛を逃がすことはない。
この重く苦しいものも、全部、背負って行く。
シキが与える苦痛が自分に想いを生ませたのなら、これは全部シキに対する想いなのだと、そう信じて。
「さよなら、ケイスケ。」
床に散らばっていた刀を拾い上げ、ケイスケに振り上げる。
顔を背けない。ケイスケが笑って応える。
だから、自分も笑おう。
惨めなくらいに。

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