MAR

□When?
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「おーいナナシ!」
「ん?おーギンタ。なんや?」
後ろから呼び止めたギンタに笑って振り返る。
「あのさ、アルヴィス知らないか?」
一瞬、冷たく凍りついた気がした。胸の中もその顔も。
知らぬが故の残酷さにナナシは心の中で苦笑するしかなかった。
「さっきから全然見つかんなくて・・・。どこに行ったんだろ、アルヴィス。」
寂しそうな顔をする、とナナシは話も聞かずにボンヤリとしていた。
「アルヴィスってばすぐどっか行っちまうからなぁ。」

君だから、心優しい君だから、これ以上傷つけたくはなくて。
自分のために傷つけたくはない。
恋人を苦しむほどに愛おしむ君が愛おしい。

「見つけたら教えてくれよな!頼むぜ。」
じゃあな、と言いかけたところでギンタは止まった。
否、止められた。
ナナシの手が腕を掴んでいる。
「・・・?」
「・・・ない、」
「え?」
ナナシの久々に見せる真剣な面持ちにギンタは緊迫感を覚えた。
「な、ナナシ?」
返事がなかった。不安に思ってもう一度呼ぶと、ナナシは気付いたように驚いた表情をした。
「あ・・・いや、スマン!」
腕を離すと同時に力が抜けた。
そのとき自分が今まで力んでいたのがわかった。
「さっきなんて言ったんだ?“ない”?」
ギンタの頭の上にはてなマークが立っている。
「ん〜、“そっちやない”って言おうとしたんや。まだ外におると思うで?」
「そっか。サンキューな!」
走っていくギンタの背を見送り、壁にもたれる。
「ふぅ・・・。」


『渡しとうない』

「・・・言えるわけないやんけ。」
言いかけた本当の言葉。

自分がもし伝えたとしても、それはギンタを悩ませ苦しめるにすぎない。
アルヴィスを想う苦しみと自分に対する苦しみは大きく違う。
気持ちの名も意も違うのだから当然で、しかしそれは運命に翻弄されるかのようなもどかしさで。
「敵わんなぁ・・・。」

いつまで笑うのだろうか。

いつまで笑えるのだろうか。


いつになったら笑えるのだろうか・・・。





「ねぇナナシ、ギンタン見なかった?」
日も暮れたころ、廊下ですれ違ったドロシーが肩を叩いた。
「さあ?見とらんなぁ。それより自分と楽しいことでもしようやドロシーちゃん♪」
癖や好意の表現から肩を組もうとしたが、ドロシーの強烈なパンチにより阻まれる。
ギンタの居所、といえば“アルヴィスのところ”と答える他ない。もちろんそんな回答はしないが。
「暇なら一緒にギンタン探してよ!ほらほら!」
「そりゃないで〜!そんなんなら女の子と遊びたいわぁ!」
ドロシーに背中を押され、ナナシは無理やり捜索に駆り出される。

・・・アルヴィスと会っているところに出くわさなければいいのだが・・・。


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