MAR

□When?
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手を離さなかったら。




「いきなり呼び出すなんて、どないしたん?」
聞きたくない。聞かなくて良かったのに。



「俺はギンタが好きだ。」
レスターヴァ城の暗い廊下で、ある二人の声が響く。
窓を背にするナナシとその目の前に立つアルヴィスの声だった。
「アルちゃん熱でもあるんとちゃうか〜?」
わざとらしく額に手を当てた。
アルヴィスはパシッと小さな音で振り払う。
「好きなんだろ、ギンタが。」
どうやら話を逸らさせてくれる気は微塵もないらしい。
「鋭いんやなぁ。バレへんと思っとったのに。」
「そんなことを言ってるんじゃない。」
逆光でナナシの顔は見えなかった。
それでもわかる。
笑っているんだろうな、と一つアルヴィスの頭に過ぎった。
「せっかく両思いなんやからエエんやないの?」
「だが・・・そんなのは、お前が辛いだけだろう!」
―――皆の前でいつも笑って。
「気ィ遣ってくれて嬉しいで。こんなアルちゃん滅多に見られへんし、なんか得したわ!」
アルヴィスの言葉も空しく、ナナシは背を向けて部屋に戻ろうとする。
「ナナシ!」
「恋人は大切にせんとアカンで。ほな、おやすみ〜♪」

いつまで笑うのだろう。

いつまで笑えるのだろう。


いつになったら笑えるのだろう・・・。



「アルヴィスどこに行ってたんだよ。廊下暗かったろ?」
「起きていたのか。ナナシと話をしていたんだ。」
部屋に戻るとギンタがベットに座っていて、すでに眠りに入っているベルと帰りを待っていた。
「ナナシ?なんか元気ないみたいなんだよなぁ。もしかしてそのことか?」
「まぁな。・・・だが、アイツなら大丈夫だろう。自分で答えを見つけるはずさ。」
ベルを引き取り、小さな布をかけてやる。
「そっか。アルヴィスはよく見てるんだな。」
もちろんギンタは“仲間を”という意味で言ったつもりである。
「なんだ、妬いているのか?」
「ちっ違う!!!」
紅潮する顔はなんともわかりやすい。
無論妬いているわけでないことくらいはわかっている。
「俺はギンタを一番に見ているつもりだが?」
「・・・。」
「ギンタ?」
アルヴィスはギンタの前に椅子を寄越し座った。
「知ってるよ。・・・俺もだから。」
ろうそくを一本だけ灯し、二人は今宵の誓いを交わした。






「どうしたんだよナナシ、寝不足か?」
翌朝メンバーの中で一番遅く朝食に参加したナナシ。
席に着くなりギンタに声をかけられる。
「女の子と遊ぶ夢見とったんやで!?可愛い子ばっかりやったのに・・・。」
いつも通り、女好きで楽天な自分。
夢の続きが見れなくて残念とでも言いたげにハア、とため息をついてからスープを一口流し込む。
「あれ、そういえばアルヴィスは?」
ギンタが誰にともなく尋ねる。
ナナシは胸を突かれたような気持ちになった。が、表情には出さない。
「アルヴィスならもう食べ終えて散歩に行っちゃったよ?」
スノウの答えに「ふーん」と興味なさそうに返事したギンタだったが、それはわざとだ。
きっと食事を終えればすぐに探しに行くのだろう。


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