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□Pupilla
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それは、ルッスーリアの一言で始まった。
「ベルちゃんの眼って見たことないわよね」
レヴィがそれに同意して頷く。
「そういえばそうだな」
「何とかして見てみたくない?」
側で二人のやりとりを見ていたシャルが声をあげる。
「僕がやるよ」
幼い少年の悪戯っぽい声に、二人は顔を見合わせ大きく頷いた。


計画はすぐに実行することになった。
シャルは自室のソファに座っているベルフェゴールを見つけると、膝の上に乗った。
「シャルか」
気配を察したのかベルフェゴールが声をあげる。
シャルが甘えて膝に乗ってくるのはよくあることなので、ベルフェゴールも警戒していない。
シャルは気配を絶ってついてきたルッスーリアとレヴィに目で合図を送った。
そして。
「・・・・えいっ」
一瞬の隙をついてシャルはベルフェゴールの前髪を両手でかきあげた。
燃えるような深紅の瞳が姿を現す。
しかし。
「・・・・・・っ・・・」
直後、ベルフェゴールの手がシャルを自身の膝の上から叩き落としていた。
床に転がり落ちたシャルは突然の事に何が起きたのかもすぐに理解出来ずにいた。
「・・・・・・何すんの?」
聞いたことのない低い声音。
それはベルフェゴールが初めて見せた怒りの感情であった。
本気で怒ったベルフェゴールなど見たことのないシャルはあまりの剣幕に怯え、固まってしまっている。
ルッスーリアとレヴィはどうしようかと思案し始めた。
だが。
「シャルだけじゃないよね」
ベルフェゴールの言葉に、側で気配を殺していた二人はギクリと固まった。
「あ、あの・・・ ベルちゃん?ほんの冗談じゃない」
「そ、そうだ。そんな深い意味は・・・・」
慌てて弁解するルッスーリアとレヴィ。
だが、ベルフェゴールは冷たい声でこう言い放った。
「出てけよ」
怒りに染まったベルフェゴールに圧倒されていたシャルは謝らなければとベルフェゴールに近寄った。
「あの・・・ベル・・・・」
「シャルも出ていってくんない?」
シャルの小さな弁解の言葉はベルフェゴールの氷のような声に閉ざされる。
今は何を言っても許してはくれないだろうと背を向けたシャルたちに向かってベルフェゴールが呟く。
「最低だよ、あんた達」
涙で震えたベルフェゴールの声はシャルの胸に深く突き刺さった。
しゅんとうなだれたシャルは無言で部屋を出ていった。
ルッスーリアとレヴィもそれに続いて逃げるように出ていく。
一人残されたベルフェゴールはソファの上で自身を守るかのように膝を抱えた。
頬が濡れる感覚に、自分が泣いていることを知る。
幼い頃、この赤い瞳のせいで母親に拒絶された。
嫌な記憶。
俺を見ないで。
俺の中に入って来ないで。
あんな想いは、もうしたくない。
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