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□Pece perfetta
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ある日のことだった。
応接室で書類の整理をしていた悠弥はふと顔を上げ、側で本を読んでいた翠が僅かに顔を歪めているのに気付いた。
悠弥の視線に気付いたのか、翠はポツリと呟いた。
「・・・救急車」
意味が判らず、悠弥は首を傾げる。
「鳴ってんだろ?さっきから」
言われて、悠弥が耳を澄ましてみれば確かに遠くの方で救急車のサイレンの音がしていた。
翠は益々不機嫌そうな顔をし、こう言った。
「俺、あの音嫌いなんだよな」
「嫌い?」
悠弥がそう問い掛けると、翠は頷いてこう続けた。
「うるせーし、音外れてるし。聞いてるとイライラすんだよ」
翠の答えを聞いた悠弥は心の中でなるほどと呟いた。
翠は母親である隼人の能力を受け継ぎ、絶対音感を持っている。
そのせいで翠の耳にはあらゆる音が階名で聞こえてしまうのだ。
音が外れているというのは、彼にとってはとても気持ちの悪いものなのだろう。
そのうえ翠は耳が良い。
遠くの音でも聞きとってしまうのだ。
絶対音感というのも便利なだけではないのだと、悠弥は改めて知らさられた。
そうこうしている内に遠ざかったのか、救急車のサイレンは消えていた。
「大変なんだね」
悠弥が思わずそう言うと、翠は少し躊躇った後、遠慮がちに頷いた。
「・・・ん、まぁな」
そしてそのまま、翠はソファにごろりと横になった。
「翠?」
「眠ぃ」
悠弥の問い掛けに短くそう答えた翠はそのまま目を閉じた。
次第にくぅくぅと寝息をたて始めた翠を見つめ、悠弥は小さく微笑んだ。

「・・・おやすみ、翠」



Fin.
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