2

□tomba
1ページ/2ページ


山本家のリビングでは瓜の爪がフローリングにあたる響いていた。翠と瓜が遊んでいるからだ。
「翠」
父である武がリビングにやって来た。今日は隼人が仕事の代わりに武が本業が休みなので、これから竹寿司をあける予定なのだ。
「せっかくの三連休なのにどこにも行かないのか?デートとか」
「悠弥、イタリアに帰ってるから居ないよ」
「イタリア?」
武は少し考えると、翠には聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「そうか…悠弥は覚えてるんだよな」

ぼんやりと聞こえてくれる教会の鐘を聞きながら、悠弥は花束を手に墓地を歩いていた。正確に並んだ墓石の中から、目的のものを見つけて悠弥は足を止めた。
白い墓石に刻まれた名前は、アレッシオ・セレーニ。翠の世話係だった青年の名だ。
悠弥も翠と会うたびに世話になっていたので、遊んでもらった記憶がある。死んだと聞かされたときは信じられなかったくらいだ。
本当の兄のように優しく、翠のどんなワガママも軽くあしらいつつも、叶えてくれた人だった。
悠弥が墓石に花を添えると、彼の声が悠弥の記憶の中で呼びかけた。
「ユーヤ!」
親しみのある笑顔と耳に心地よい軽やかな声。その気になれば、悠弥の目蓋と耳の奥に今でも蘇ってくるものだ。
不意に目頭が熱くなり、悠弥は指で目を軽く擦った。
「若」
悠弥は後ろに振り返った。そこにはロマーリオが運転手として派遣してくれ、キャバッローネの一員がいた。
「帰りましょう。雨が降ってきそうです」
「雨なんか……」
悠弥は晴れた空を見上げた。しかし、彼の気遣いに気付き、小さく笑みを浮かべた。
「そうだね。帰ろうか」
悠弥はゆっくりと墓石から離れた。しかし、一度だけ振り返って小さく呟いた。
「Grazie mille, Alessio.A presto.(ありがとう、アレッシオ。また近いうちに)」

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ