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□不良
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ある朝のことだった。
寝坊をしてしまった翠は一人で学校への道を歩いていた。
「おい」
不意に見知らぬ声に呼び止められる。
翠が振り返ると柄の悪そうな男が数人、翠を睨みつけていた。
翠も無言で睨み返す。
「てめぇ、中坊だろ」
男たちの一番前に立っていた男が口を開く。
どうやらこの男がリーダーのようだ。
「だったら何だよ」
男のドスを聞かせた声にも物怖じせず言い返す翠。
すると翠の態度が勘に触ったのか、男の手が突然、翠の前髪を乱暴に掴んできた。
「中坊のくせにこれはねぇんじゃねーか?」
翠の髪を指して笑いながら言う。
どうやらこの男たちは翠の銀髪が気に入らないらしい。
「・・・いっ・・・てぇな!放せよ!」
ぐいぐいと髪を乱暴に引っ張られ、翠はたまらず暴れた。
すると腹部に鈍い痛みが走る。
男の一人が翠の腹を蹴りあげたのだ。
衝撃で息が詰まり、膝をつく翠を見て男たちが笑い声をあげる。
動けない翠の体を抱えた男たちは人気のない場所へと移った。



乱暴に地面へ下ろされぶつけた背が痛む。
翠は何をされるのか不安に感じながらも変わらず男たちを睨み続けた。
「何だぁ?その目は」
そう言って男の一人が翠の腹部を先程よりも強く蹴りつけた。
腹に感じる衝撃に翠はうめき声をあげて吐血した。
「・・・・ぁ・・・っ」
血を見た翠の動きが止まる。
「・・・ゃ・・・っ・・ぁ・・・・」
先程までの態度が急変し、弱々しく怯え出した翠に男たちは不思議そうに顔を見合わせる。
しかし自分たちに害はないと判ると再び翠への暴行を開始した。
パニックを起こした翠は抵抗も出来ずに飛んでくる蹴りや拳を受けるしかない。
体中を痛めつけられ翠は地面に蹲った。
額から垂れた血が目に入ったのか左目が霞む。
踏みつけられた腕の感覚はない。
「・・・・・・・・・ママ・・・・・・パ、パ・・・・・・」
幼い言葉使いで助けを呼ぶ翠。
血を見たショックで精神が幼い頃に逆行してしまっているのだ。
そんなこととは知らない男たちは突然幼い言葉使いになった翠を見て囃し立てた。
「何だー?コイツ」
「ははっ ママだってよ」
言いながら更に暴行を加えていく。
翠の意識が朦朧としてきた頃、やっと男たちは飽きたのか動けなくなった翠を放置して煙草に火をつけ始めた。
「・・・・・・・ママ・・・・・・パパ・・・・・・・・・Aiuto(助けて)・・・・・・・・Alessio(アレッシオ)・・・・・」
パニックにより、イタリア語で助けを求める翠の腕に突然男の一人が火のついた煙草を押し付けた。
「ぎ・・・ッ・・ぁ・・・ぁああ・・・」
悲鳴をあげようと開いた唇から漏れたのは僅かな声のみで。
あまりの激痛に悲鳴をあげることすら出来ないのだ。
そのままパクパクと酸素を求めるかのように唇が開閉される。
瞳は溢れんばかりに見開かれ、涙がひきりなしに溢れていく。
逃げようと暴れる体はいつの間にか羽交い締めにされ激痛にのたうち回ることすら叶わない。
男はそんな翠の様子を見てニヤリと口端を吊り上げると、再度煙草の火を翠の腕へと押し付けた。
一つ目の激痛が消えぬ内にやってきた二つ目の激痛に翠は悲鳴をあげて泣き叫んだ。
幼い頃に逆行した翠の精神は理性というものを忘れてしまっていた。
ただただ痛みに泣き叫ぶのみ。
その瞳は恐怖と苦痛に彩られた幼い少年のものだった。
幼児のように泣き喚く翠を見て男たちの内の何人かがうざったそうに顔をしかめる。
「うるせー」
「黙らせろよ」
口々に言う。
すると一人の男が心得たと言わんばかりに笑い、小さな注射器を取り出した。
「これは鎮痛剤と同じ作用の薬だ」
仲間たちに説明しながら翠の腕に針を刺し薬を投与していく。
男の言葉通り、泣き叫んでいた翠が次第に大人しくなっていった。
だがそれと同時に翠の瞳が濁っていく。
「・・・・ただし」
ニヤリと笑みを深めた男は一度言葉を切った。
「この薬の一番の作用は幻覚作用だけどな」
そう言って堪え切れないとでも言うように盛大に噴き出す。
男の目線の先には薬の幻覚作用によって夢を見ている翠の姿が。
「・・・・・・・・・・アレ・・・・ッシオ・・・・・ア・・・レ・・・ッシ・・・・・」
ぶつぶつとうわ言のように呟き続ける。
その瞳には何も映ってはいない。
「壊れちまったんじゃねーか?」
笑いながら言い合う男たち。
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