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□雨の日
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ある日の放課後。
翠は昇降口へと続く廊下を歩きながら溜め息をついた。
窓の外を見れば土砂降りの雨。
叩きつけるような雨音は一向に弱まる気配がない。
傘を持って来ていない翠は昇降口で途方に暮れた。
千冬なら持っているかもしれないが今日は凛音と共にアジトへ帰ると言っていた。
恋人同士であるあの二人を邪魔するつもりは翠にはない。
自身の恋人である悠弥なら・・・・
そう考えかけて翠は首を横に振った。
今日は、悠弥は風紀委員の仕事がある筈だ。
邪魔は出来ない。
翠はもう一度深く溜め息をつくと、止みそうにない雨を睨んだ。
止めよコノヤローと心の中で悪態をついてみるものの、そんなものが通じる訳もなく。
相変わらずの土砂降りに翠は仕方ないかと雨の中に踏み出した。
あっという間に水を含んでいくシャツに寒さを感じながら翠は歩き出す。
学校の校門を出た所で誰かに呼ばれたような気がした。
立ち止まって振り返れば、走り寄ってくる悠弥の姿が。
悠弥は自分の差していた傘を翠に差し出すと同時、低い声でこう言った。
「・・・・・・何してるの?」
「家に帰ろうと思ってたんだよ」
悠弥に負けず劣らずぶっきらぼうに翠が言う。
「そんなことは聞いてない。何故こんな雨の中一人で帰ろうとする?」
翠の態度が勘に触ったのか悠弥が更に低い声を出す。
「・・・・・・」
翠は黙ったまま目を反らしてしまった。
「こんな雨の中傘もないのに一人で帰ったりしたら風邪を引くだろう」
少し優しい声でそう言ってやると、少しの沈黙の後翠が小さな声で言葉を発した。
「・・・・・・・・邪魔したら・・・・悪いから・・・」
「え?」
「・・・・・邪魔したくなかったんだよ!悠弥の仕事を!」
翠の小さな声は雨音によりかき消えてしまった。
思わず聞き直した悠弥に翠は半ば怒鳴るように答えた。
翠の言葉に嬉しさを感じながらも悠弥はでもね、と言葉を紡いだ。
「僕は、翠が風邪を引いてしまうことの方が嫌なんだよ」
優しくそう言ってやれば翠は無言のままこくりと頷いた。
「おいで。翠の家より僕の家の方が近い」
悠弥は翠の手を取ると自宅であるマンションに向かって歩き出した。
外で手を繋ぐのを嫌がる翠が大人しい。
寒いのだろう。
悠弥は翠の負担にならない程度に歩く速度を速めた。
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