パラレル

□secret LOVE
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翠はイライラしていた。
その証拠にピアノに置かれた灰皿に煙草の吸い殻をまた1つ増やしていた。
歌手である翠にとって煙草を吸うなど致命的とも言える行為だが、それだけ今の仕事が進まないのだ。
新曲の歌詞はできている。
しかしピアノの伴奏の作曲がうまくいかないのだ。
そのために所属事務所の社長の別荘に籠もっているくらいだ。
ほとんどできているため細部を詰めようとしているのだが、何度やってもしっくりこないフレーズがあり、翠を苛立たせているのだ。
ピアノの弾き語りが歌手としての翠としては最悪の状態としか言えない。
「くそっ・・・」
もう一本吸おうかと煙草の箱に手を伸ばすと、誰かが翠の手を掴んだ。
「こら、煙草はダメって言ったでしょ?」
その声の持ち主に翠は苛立った表情を向けられる。
「そんな顔してもだめ」
悠弥は翠の頬に手を添えると、唇を重ねた。
煙草とブラックコーヒーの苦味が混じったキスに翠は眉をひそめた。
悠弥は翠の所属事務所の若き社長であり、翠の恋人でもある。
学生時代はモデルをしていたという容姿は、引退しても街を行く人が振り返るくらいだ。
悠弥は翠の煙草をスーツのポケットに入れると、重ねた唇を一度離して、深い口付けを再度する。
「はぁ・・・・んっ」
口内の刺激に弱い翠は解放されると、力が抜けたように悠弥にもたれかかった。
悠弥は翠を片腕に抱いたままピアノの椅子に座る。
恋人をいたわるように翠の額にキスを落とした悠弥は、譜面台に置かれた歌詞の紙を見た。
恋に苦しむような、自分の気持ちに葛藤する詞が並べられていた。
「これ、僕達の事みたい」
悠弥はぼそりと呟いた。
悠弥が経営する事務所は恋愛禁止。
特に同じ事務所内では、だ。
「ちげぇよ、バカ」
翠は頬を赤くしながら言った。
「でも、さっき別の曲の練習の時、曲が乱れてたよ」
曲の乱れは心の乱れと悠弥が続けると、翠はバカと言った。
「翠、お腹空いたでしょ?何食べたい?」
「・・・半熟卵のオムライス」
「わかった」
悠弥は翠をソファーに運ぶと、台所に向かった。
翠は休憩も兼ねてソファーに身を沈めた。

Fin.

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