パラレル

□幸せなれ苦しまず辛い思いなどせず幸せになれ、僕よ
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「翠弥」
弟の部屋に入った悠希が弟の名を呼ぶと、部屋を2つに区切るカーテンの向こうに金の髪が見えた。
しかし髪は怯えるように陰に隠れた。
「翠弥。お兄ちゃんだよ。おいで」
悠希が両腕を広げると、悠希と同じ髪の少年がカーテンから出てきて悠希の手を掴んだ。
大きな茶色の瞳に表情はなく虚ろだった。
「翠弥」
悠希が話し掛けると、翠弥は手を離し、ピアノに向かった。
そして以前悠希が聞かせたCDの曲を弾き始めた。
悠希は毛布が放置されたソファーに腰を下ろすと、弟の背中をじっと見つめた。
6年前、悠希の父、悠弥が連れ帰った子供―翠弥は5歳になっても一言も喋れなかった。
表情を出す事も少なく、学習能力は他の同年代の子供より劣っていた。
サヴァン症候群ではないかと言われているが、確かなことは何もわかっていない。
悠希は自分の手よりはるかに小さい弟の手を思い出し、小さく溜息をついた。
「俺が守ってやらないと・・・」
弟との接触を避け、愛情すら示さない父の分も頑張らなければと悠希は心に決めていた。

Fin.

お題配布先:クロークの依存論
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