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□Dolore
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気がついたら、車で海まで来ていた。
翠と約束したけれど、2人で来ることは結局出来なかった。
春先の海には誰も居なかった。日も沈み出したせいか、冬の名残で風は強く冷たかった。そして、波も荒々しくなっていた。
岩場に座り込んでじっとしていると、僕の居る世界がどんどん遠くなるように思えた。翠の葬式も翠の妊娠も翠の死もすべて別世界の話のようだ。
今にも翠が車の助手席から降りてきて、僕に向かって文句を叫びそうだ。
「悠弥、寒いから早く帰ろうぜ!」
でも、助手席には誰も座っていない。
「ええ、見つかりました――ええ、守護者の皆にも伝えてください」
聞きなれた声が聞こえてきて、その方向を見れば喪服姿の凛音がケータイを手に浜辺に立っていた。
「探しましたよ、悠弥」
「何しにきたの?」
「いや……自殺するんじゃないかって思いまして」
何それ、と僕は鼻で笑った。
自殺?翠の後を追うなんて考えてもみなかった。
「でも、守護者の皆が心配しています」
「今、見つかったって連絡したんだろ?」
「ええ。千冬も安心してました」
凛音はそう言いながら、僕の手を取った。凛音の手は暖かった。
「冷たいですよ、悠弥。どこかでバーに入って温まりましょう」
「いや、いい」
僕は凛音の手から逃れた。
「これから行きたい所があるんだ」
「そうですか」
これはウソじゃない。ウソのようだけど、本当のことだ。

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