パラレル

□Ti Amo
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先日、千冬は1人で別荘のある郊外へ来ていた。
山が多く、静かなため考え事をしたい時などよく来ているので、山に入っても迷う事はなかった。
動きやすい服装で森の散策に出かけた千冬は、1人で考え事をしていたせいかどんどん奥へ入ってきてしまった。
しかし、目的があって千冬は奥へ入ってきたのだ。
山の中にひっそりとあるブナの並木の先には、亡き両親が逢引きを繰り返したという小屋があるのだ。
小屋にはこじんまりとしたソファーと本があちこちに置かれていた。
「兄様が最近来たというのは本当だったのか…」
千冬は溜息をつきながら、ソファーに乗ったままの本を近くにあった本の山に積んだ。
本の題名は兄の好みそうなものだった。
その時、コンコンと扉が叩かれた。
千冬は自分以外の人間が居ることに驚き、体をびくりと振るわせた。
扉は返事は無用と言うように、軋みながらゆっくりと開いた。
「僕ですよ、千冬」
扉を開けたのは、幼い時から知っている凛音だった。
「凛音さん」
千冬はほっとした顔をすると、凛音に駆け寄り抱き付いた。
凛音も千冬を腕の中におさめると穏やかな笑みを浮かべた。
2人の視線が交わると、自然と唇も重なった。

千冬は凛音が結婚すると聞いた時、ショックだった。
ずっと片思いをしていたのだが、想いは大人になっても告げていなかったのだ。
凛音も結婚の話が持ち上がった時に千冬への想いが頭を掠めた。
しかし、両家への利益は多大なものだったので、凛音は千冬への想いを諦めわがままで甘えん坊の典型的なお嬢さまと結婚した。
祝福された結婚ではあったが、新婚生活は妻に振り回されたもので、凛音は千冬を思い出しては結婚に後悔していた。
そんな時、凛音がふらりと郊外の別荘に出かけると、同じように別荘に来ていた千冬に偶然会ったのだ。
「凛音さん…」
「…千冬…」

その時を境に、2人は千冬の両親が残した小屋で密会を繰り返しているのだ。

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