2

□セーラー服
4ページ/7ページ


「翠、あーん」
「あーん」
翠の口を開くと、悠弥はそこにチョコレートを入れた。
翠の舌が名残惜しそうに離れていくので、悠弥は銀髪を優しく撫でた。
「もうすぐお迎えが来るから待っててね」
「うん」
翠が頷くと、悠弥はリビングに脱ぎ捨てられたままの翠の制服をたたんで紙袋に入れた。
それを終えると、悠弥は皿からチョコレートを取り、翠の口に運ぶ。
1つ1つ小鳥のようについばむ翠をデジカメで撮りながら、悠弥は笑っていた。
「翠、Buono?(おいしい?)」
「Dolce!(甘いよ)」
2人が笑顔で話していると、玄関の扉が開いた音がした。しばらくすると、雲雀と山本夫妻が入ってくる。
「ただいま。そこでその2人に会ったんだけど」
雲雀が肩越しに親指で山本夫妻を指した。
「やっぱ翠、カワイイのな」
グッジョブと武は悠弥に親指を立てた。
その満面の笑みとは対照的に隼人は口をあんぐり開ける。
「翠、お前もかよ…」
その昔、隼人も武にハメられて女装した事が数回あったのだ。
「まぁ、嵐のの言う事もわからなくないね」
同じような記憶がある雲雀も呟くと、両親に気付いた翠は隼人に抱き付いた。
「かぁさん!」
「翠、帰るぞ」
まったく、こんな格好しやがってと呟きながら隼人が翠の髪を撫でると、翠はえーと声を上げた。
「ねー、父さん。俺、帰んなきゃダメー?」
次いで翠が武に尋ねると、武は背中からフローリングに倒れた。
「ちっ…役立たずが」
隼人は舌打ちしながら、動かない武の腹を足で突付いた。
「悪いな、雲雀。ウチのが暴走して。これは外にでも転がしておいてくれ」
「いやいや、悠弥にも非がある。きっちりと落とし前付けさせておくから。雨のはこっちで処理しておくよ」
「悪いな」
隼人は雲雀はそう言葉を交わすと、翠の制服が入った紙袋を手にし、反対の手で翠の手を掴んだ。
「翠、帰るぞ」
「えー…父さんは?」
「放っておけ」
隼人に言われると、翠はまた明日と悠弥に手を振った。悠弥が手を振り返すと、隼人に手を引かれ翠は大人しく自宅に戻った。
「まったく…君はどんどん山本武に似てくるね」
雲雀はそう言いながら、大きくため息をついた。
悠弥はどう答えればいいのか悩んでいると、雲雀はテーブルの上のチュコレートに手を伸ばした。
「チョコレートボンボンとチョコレートを混ぜて出したのか。道理で山本翠からお酒の匂いがするはずだよ」
そう言うと、雲雀はチョコレートボンボンを食べた。
翠が最初に口にしたチョコはチョコレートではなくウィスキー入りのチュコレートボンボンである。しかし、翠の口まで悠弥が運んだものは、ある1つを除いて普通のチョコレ-トである。
「おいで」
雲雀がそう言ってリビングを出て行くので、悠弥はあわててその後を追った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ