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□夏休み明けの災難
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聞き慣れない中年男性の声に、珍しく御堂は小さく舌打ちをした。
「ちっ……来やがりましたわ」
普段言わないような言葉を吐くと、御堂は平静を取り戻し、自分たちの方に向かってくる男性を悠弥たちに紹介した。
「委員長、生活指導の井伊先生が病気療養のためお休みを取られになったのは以前ご報告した通りです。あの方はその代理の鳥居先生です。今朝、突然服装検査をなさると命令してきたのです」
悠弥はちらりと鳥居に目をやった。
髪の薄い頭も、やや出たお腹も特徴にならないくらい平凡な中年男性だ。
しかし、いかつい顔と手にしている竹刀が生徒に大きな威圧感を与えていた。
「そこの金髪と銀髪。生徒手帳を寄越せ」
「お待ちください、鳥居先生。彼は風紀委員長ですよ」
御堂の言葉にフンと鳥居は鼻で笑う。
「例外はない。風紀を取り締まる者が髪を染めるなど言語道断。恥を知れ」
「ちょっと待てよ!俺も悠弥も髪なんか染めてねーよ」
悠弥の隣で大人しく話を聞いていた翠が声をあげた。
「フン。では何だと言うんだ。外国人か?」
「そーだよ。俺は3/8イタリア人。悠弥はハーフだよ!」
「その目では説得力がないな」
鳥居が言っているのは。翠の父親譲りの茶色い目のことだ。
日本人の特徴が入っているので、納得できないと言うことだろう。
「それにその服装は校則違反だ」
鳥居は竹刀を翠に向けたかと思うと、腹部に一撃を喰らわせた。
「翠っ!」
すぐ後ろに立っていた千冬が倒れそうになった翠の背中に触れる。
「何するんですか」
と同時に悠弥と凛音が翠の前に立ち、鳥居をにらみつける。
「お前ら教師に歯向かうのか」
「歯向かいますよ。僕の仲間に害を加える者ならば」
悠弥は声を低くし、さらに凄みを利かせて鳥居をにらみつける。
「くっ……放課後、お前らの親に来てもらおう。どういった教育をしてるのか問いただしてやる。お前らも残れ。勝手に帰るなよ」
鳥居はそう言って校舎へと戻って行った。
「翠、大丈夫ですか?」
沈黙を守っていた凛音が慌てて尋ねる。
「はい、なんとか大丈夫です」
翠はそう答えると、自分の前に立ったままの恋人を見上げる。
「悠弥」
何かにそれ感付いた凛音が悠弥の肩を叩く。
「大丈夫ですか?」
「Si. Non fa niente.(うん。なんでもないよ)」
悠弥はイタリア語で答えると、何も言わずに1人でその場を立ち去ってしまった。
「珍しいですわね、委員長がイタリア語を話すなんて」
御堂は不思議そうに呟いた。
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