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□夏休み明けの災難
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「あーあ…いーさん良い人だったのによ」
「仕方ないよ。肺ガンが見つかったんだから。まぁ、早期発見で良かったよ」
HR終了後、翠と悠弥は職員室前の廊下に来ていた。
凛音と千冬は一緒に残ると言ったが、いつまでかかるかわからないので2人を先に帰した。
「雲雀、山本」
2人が名を呼ばれたほうに振り返ると、悠弥の担任である女性教師―桜田がクラス名簿を手に職員室の入り口に立っていた。
「親御来るまで中で待ってろ」
「はい」
2人は桜田の後について職員室に入った。
HRが終わったばかりなので、職員室では教師がまばらにしかおらず、それぞれの仕事に専念していた。
桜田は自分の席に座ると、自分の向かいの2つの席を指して座れと言った。
「そういや、親呼んだのはいいけどさ、雲雀の母親は日本にいるのか?」
「いますよ。今朝一緒にイタリアから帰ってきましたから」
「今朝ねぇ…ご苦労なこって。まぁ問題はないからいいが」
桜田はポニーテールを揺らしながら言った。
「先生、あの鳥居って奴なんだよ。態度デカいし」
翠は桜田に向かって早速文句を言う。
鳥居の横暴は始業式で生徒全員に知られるようになった。
小さな声で少し話していただけで生徒に大声で注意をとばしたり、突然竹刀を床に叩きつけるなどやりたい放題だった。
泣き出す女子生徒も出たりと、鳥居は生徒からの嫌われ役が決定していた。
「それがだな。鳥居は……」
「鳥居先生は並盛町の事情を何も知らないんだよ」
翠の文句に答えたのは、桜田ではなく翠の背後からひょっこりと姿を現した初老の男性教諭である。
「花さん!」
翠の担任―花山という名の彼は生徒から花さんと呼ばれ、親まれている。
それは優しい顔や穏やかな性格が‘おじいちゃん’を彷彿させるからだろう。
「並盛町の事情を知らないって事は雲雀の名も知らないという事だよね」
見た目からは想像できないしなやかな動きで花山は自分の席につく。
「かわいそうにね、鳥居先生」
花山の声と重なるように、大きなエンジン音が聞こえてきた。
車が好きな人ならすぐにわかっただろう。
そのエンジン音が日本車のものではなく欧州車のものであると。
「雲雀、跳ね馬!テメーらそんな大勢で来るんじゃねーよ」
「うるさいよ、スモーキングボム」
学校中に響くような声とそれに答える冷静な声に桜田がお!と顔を上げた。
「山本の母さんも雲雀の母さんも来たみたいだな」
「おや、珍しいね」
席を立って窓の外を見た花山が呟いた。
「お父さんたちも来てるよ」
「えっ?」
「マジかよ」
悠弥と翠は花山の手招きに応じて窓の外を見ると、それぞれの両親―悠弥はキャバッローネファミリーの皆まで―の姿を確認した。
「来たようだな」
鳥居の声がして悠弥と翠は振り返る。
そこには鳥居が意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。
「お前らの生活態度を徹底的に直してやる。そのチャラチャラした服も、風紀委員の制服もだ」
悠弥と翠はむっとした表情になった。
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