捧げ物

□いくらお前にでも渡さない
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イラ…





チラチラとある方向を見る度に胸を過る苛立ちに、いつもへの字型の唇が更に角度を増す。




桂が横目で見つめたその先にいるのは、彼が現在身を置く店の女主人と自分の親友。


女主人と親友とのやり取りがやけに親しげ(親友は一切喋らないが)で、一方の自分はすっかり蚊帳の外。
そんな桂は疎外感に包まれ、なんだか泣きたくなってきた。












事の発端は数日前。
いつもの如く真選組に追われていた桂とその親友。
一番隊隊長のドSが放った大砲に狙われ、逃げる最中……



『きゃっ』


短い悲鳴と共に胸元に柔らかい感触がしたかと思うと、目の前の人物―――それは、以前からちょくちょく顔を出していた『北斗心軒』の女主人、幾松―――は倒れた。




しかし様子が変だ。

その美しい顔を歪ませ、腕を抑えて踞っていたのだ。




『幾松殿っ!!?大丈夫か!!?すまない……俺のせいで…』



『平気よ……っ』



平気と言う割には引きつった表情の幾松に良心が痛む。
自分の不手際で愛する彼女に何てことを…







意を決した桂は踞る幾松を抱き上げて裏路地へと走り出した。

いつまでもここに居ては危険だ。
それに早く病院に連れていかねば…


羞恥の表情の幾松の言葉を無視して彼は病院へと走ったのだった。


















そして、幾松に告げられた診断は腕の骨折。きっと自分とぶつかった時に腕から着地したのであろう。

彼女は気にするなと笑って見せたが、浮かない顔の桂。


彼女はラーメン屋を切り盛りしているのだ。この怪我では大変であることが目に見えている。



『幾松殿…全ては俺の責任だ。幾松殿の怪我が治るまでは俺とエリザベスでラーメン屋で働こう』


『あんた……大丈夫なの?』


『武士に二言はない』


『そ…。じゃあお願いしようかしら…』











ということでラーメン屋で働くことになった桂とエリザベス。



しかし、何故幾松とエリザベスが仲良くしているのか…?
理由は単純。元々器用なエリザベスは桂よりも仕事を覚えるのが早く、おまけにボードを使うくせに接客もバッチリ。
以前働いていた桂よりも有能であったのだ。
そんなエリザベスの腕に驚いた幾松は、エリザベスに逃亡者を辞めて働かないかとナンパする始末。


今では新商品の試作に携わり、二人であーだこーだと意見交換。

天然桂はおかしな味になりそうな物を入れようとするため、幾松の鉄拳が飛んだのは言うまでもない。




ということで、すっかりお邪魔虫扱いの桂は昼時を過ぎて客のいない店内で二人のやり取りに目をやっていたわけだ。
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