土ミツ連載

□万能メイド、ミツバさん(3)
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次第に意識がはっきりしてきた。





眠気に負けそうになるが、そろそろ起きねぇと今日も仕事だ。









それにしても、昨日は嫌な夢を見た。
彼女に会えるわけはないのに。





このどうしようもない気持ちを落ち着かせようと、枕元のタバコに手を伸ばしてそのうちの1本に愛用のマヨネーズ型ライターで火を着けた。






フーッと白い煙を吐き出し、気持ちを落ち着かせる。










ミツバの夢を見るなんて、末期だな……俺も…











ミツバが亡くなって数ヵ月経った今でも彼女のことが忘れられない。

周りの奴等にそれがバレないように、そんな素振りは見せない。
いつ死ぬか分からない危険な仕事をしているのに、惚れてた女のことを考えてて、油断して殺されたら笑えねぇ。









だから、考えないようにしていた。





それなのにあの夢…
















タバコの灰が床に落ちたことに気付き、ハッとした。








とりあえず顔でも洗ってさっぱりしてくるか…










土方は寝間着を着替えて、洗面所へと向かった。








ザー





パシャ








冷水を顔に当てると、寝ぼけた頭も身体もいつもの自分にしてくれる気がする。





あの夢のことは忘れるんだ、






じゃねぇと仕事が手につかねぇ。






キュッ










よし、この話はもう終わりだ。











「今日も頑張っか」










身支度をピッシリと整え、食堂へと向かった。




















――――――――――




「おはよ、近藤さん」





食堂でまだ寝癖のついた頭の友人に声をかけた。
やけに室内が慌ただしいが、どうかしたのだろうか。








「あぁ、おはようトシ。


って、大変なんだよ!」




「ん?どうしたんだ?」





慌てる友人の口から飛び出した言葉は、俺を狼狽えらせる言葉。










「ミツバ殿が…ミツバ殿が戻って来られたんだ!」








え…











驚いた顔で身体が動かない。






そんな俺を尻目に心底嬉しそうな顔で笑顔の友人。
目にはうっすら涙まで溜めて、よほど嬉しいのだろう。






昨日の夢は夢じゃなかったのか…?










「どっ、どういうことだ!!?アイツはもう何ヶ月も前に…!」






そうだ、彼女はもうこの世にはいない。
なのに、こんなとこにいるなんて有り得ねぇ話だ。





「それがな、生き返った訳じゃねぇんだが………


どうやらミツバ殿の姿形した機械家政婦らしいんだ、今流行りの」








流行りやらには疎い俺だが、いつぞやの騒動でその存在ぐらいは知っていた。






機械だったら俺のことなんて覚えてるわけねぇか……










昨日の出来事に妙に納得し、ほっとした。











「機械とはいえ、俺や山崎達の名前まで覚えてんだなんて驚いたぜ!」










ニコニコと笑顔の近藤をとは対称的に、顔面の動きが止まる土方。







ミツバが彼のことを覚えていなかった本当の理由が分かった。











成る程…してやられたな、奴に。












十中八九総悟の仕業であろう。



土方のことが気にくわない総悟がミツバに忘れさせるのは可能だろう。










姉貴のことになると益々嫌われるからな、総悟には。






ワイワイと騒がしいこの場でただ一人浮かない顔をした土方だった。







そんなこと何も関係ないじゃねぇか。









俺は俺の思うようにすればいい。












この息苦しい空気から解放されるために部屋からフラリと消え去り、マヨネーズと同じぐらいに無いと落ち着かないタバコを吸いに向かった。













この煙とともに流してしまおう……








(続)

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