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□一体どれ程の亡骸を積み上げれば平和は咲くのか教えてはくれないか
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そこにあったのは地獄だった。少し前の平穏が、嘘のような荒野だった。
「メビウスの輪だな」
たった二人、ぽつねんと立ち尽くす片方の女性がスッとかがみこんだ。足元の焦げた石ころを拾い、手の中で弄ぶ。
「時間軸が違う。同じ地点などない」
その独り言に応じるように、横に立った青年がゆっくりと口を開いた。此方は立ち上る災禍の煙を見上げ、薄闇に落ちる世界に紫の目をきつく細める。
「だから終焉もある」
「より完成度の高い平和も、だ」
彼女に囁いて、彼は笑った。
「喉元過ぎてしまえば、俺の悪徳ぶりも只のお伽噺にしかならなかったようだな」
告げる言葉は軽かったが、軽いからこそ本心が伺えた。音もない憤怒。期待と失望の混じる苛立ち。
「お前のカリスマ性などその程度だと言われたようで身の引き締まる思いだね」
ハッと嘲笑する青年に、石ころを手にしたままの彼女は凪いだ顔を向ける。
「腸が煮えくりかえっている顔だな」
「俺をコケにした罪は重い」
「相変わらず沸点の低い男だ。どうせなら素直に今の争いばかりの世界がむかちゅくー、とでも言えばいいのでは」
「―――魔女」
呼ぶ声は小さく、そして短かった。
だが魔女は、顔を引き締めた。
「何だ、魔王」
その忌み名に、けれど彼は眉ひとつ動かさない。
「一体どれ程の亡骸を積み上げれば、平和は咲く?」
「メビウスの輪が千切れれば、分かる」
ならば、と無表情に彼は続ける。
「ならば世界に、悪は必要か?」
「否。それは作り出すものでなく生まれるものだ」
「俺のように」
「私のように」
追従して、彼女は石ころを地に落とした。
「俺たちは、世界にとって不必要か?」
「否。何故なら私たちが、世界そのものの一部だからだ」
顔を見合わせて、二人は冷たく笑う。
「故に」
「だから」
アンコールの幕が、あがった。
「「今ひとたびの、変革を」」
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