TRASH

□BIRTH
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色素が薄く真っ白な肌で色の付いている箇所といえば頬と唇、そして未だ見たことのない胸の頂と足の付け根だけではないのかと思う。

飲んだ酒が喉を通る様がわかるほど百合のように白い肌はどこか人間離れしていて、ガラスのような碧の瞳も、つくりもののように綺麗な柔らかい黒髪も私を身震いさせた。





そんな白から溢れる赤を見て漸く、この存在が生きているのだと感じた。



どくどくと溢れる鮮血は横たわるこれが生命活動をしていた事を伝え、ひゅうひゅうと喉から漏れる息は生命の終わりを示していた。

裂かれた肌の隙間から見える鮮やかな肉の輝きと、更にその隙間から覗く白。


いつも着ていた赤い服はどす黒く染まり、所々が裂かれて、鮮やかな赤をその隙間から覗かせていた。


私を焦らすように、(端から見れば身を守るように)背けられ、丸まった身体はやがて痙攣を引き起こし始める。


私はそれを見つめて、彼女が生きているという事にたいして沸き上がる喜びを隠せなかった。




私はオルゴール人形に恋していたわけじゃない。

ちゃんと、生きて笑っていた女に恋をした!!

なんて素晴らしい!今なら信じもしなかった神に感謝をしよう!!


これで私達は結ばれる事が許された!!





私は短剣で己の腕を刺した。

皮膚から噴き出した青みを帯びた血が、横たわる少女の血の上に落ちる。

薄い色の血は、暗い赤にみるまに溶けた。



血の契り。



私は満足感で胸をいっぱいにし、少女の顔を覗くようにしてしゃがみ込んだ。

私と同じように笑顔でいてくれると思ったが、恥ずかしいのだろう、少女らしいはにかみを持って、その頬を涙で濡らしていた。
碧の瞳はふっくらした瞼に隠されて会えず、残念だったがその唇が薄く開き告白のように赤が口の端からこぼれ落ちている様を見て、私は綻んだ。

愛に応えようと彼女の体を抱き上げ、額に口づける。




その肌は青白く官能的で、肌の影にかすかにさす緑は私の肌のようだね、と耳元で囁いた。


漸く私の中で彼女は誕生した!


私の腕の中で彼女はビクリと身を震わせ、微かに唇が開いて、吐息が漏れた。

彼女の産声。

私に身を預けた彼女の腕がだらりと垂れた。

「……『―――』?」

彼女の名前を呼ぼうとするも、生まれる以前の彼女の名前が思いだせない。ええと、B、――――。




「…そうですね。あなたは産まれたのですから」


新しい名前を、と、彼女に名付けた名前は美しく、口の中で何度も復唱した。



「…ベル」









「なあに?ジズさん」






急に応えが返ってきて、私は目を見開いた。

と、同時に現実世界へと引き戻される。

今の声の主は、ソファーにもたれて眠っていた私を見下ろし。くすくすと笑っていた。

そうだ。ここは友人宅。そして「お茶が入ったわ」、と言ってソーサーごとカップを手渡すこの少女は友人の恋人。
いくつか言葉を交わした後、彼らがお茶の用意で席を立った合間に眠ってしまったらしい。

ああ、もっとあの夢を見ていたかった。



そう思いながらカップに口をつける私を見て少女は笑う。
まるで今私の見ていた夢をのぞき見でもしたかのように、悪戯っぽい笑顔で。


「私と同じ名前を呼んでいたようだけど、どんな夢を見てたの?とても幸せそうだったわ」

「…私の、愛する方に初めてお会いした時の夢、です。」

「あら!ふふ。やっぱりさっきのお話に挙がっていた私と同じお名前の方ね?素敵。」

彼女と同じ名前の少女は微笑んで、私の前にある机上に真っ赤なラズベリーソースのかかったケーキを置いた。

友人がやってきて、少女の肩を引き寄せ笑う。
仲睦まじいその様子を見て、屋敷に帰って物言わぬ恋人のメンテナンスをしてあげなければ、と感じた。




私の愛しき恋人は美しく佇んでいたが、私は物足りなさを感じていた。


彼女が産まれたあの瞬間ほど私の血を沸かせ興奮させたものはない。
願わくばもう一度、体験したいものだ。




私は寝起きの靄のかかった頭でぼんやり、赤い唇に付いたラズベリーソースを舌で舐めとる少女の姿を見る。


目の前で微笑む少女の肌は、造りもののように白かった。





END














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