2周年フリリク

□あなたが望むなら私は星にだってなりましょう
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私の朝一番の仕事といえば、彼を起こすこと。


「ルーク様、朝ですよ」


本当なら他の仕事もあるというのに、毎日毎日この作業のお陰でかなりの時間を過ごしてしまう。なんと言っても、彼は屋敷の誰もが認めるほど寝起きが悪い。更に言えば寝癖も寝言も寝相も酷い。ルーク様を起こすという仕事を、メイドは皆嫌がるのだ。
それでも、彼の幼馴染みとしてこの屋敷で長く働いてきた私は皆より少し、ルーク様の扱いを心得ている。それを理由に、ルーク様の面倒なお世話は全て私に回されるのだ。いい迷惑だが、彼は嫌いではない。嫌いだったら、彼が消えたあの日にあんなに悲しまなかっただろう。記憶も知識も失って戻ってきた彼の側に、ずっと仕えるなんてことしなかったはずだ。
ただ、私もガイも、今は自由に話すことができないナタリアも、彼の大きな変化に気付かなかったわけではなかった。もし気付いて、彼に優しく手をさし伸ばすことができたら。


「ルーク様ぁー!おーきーてー!」
「んー・・・うっぜぇなあ・・・」


・・・こんな苦労もなかったかもしれないのに。


「うざくて結構です、早く起きて下さい!」


これが仕えるべき人間じゃなくただの幼馴染みなら、今頃布団をひっぺがしてベッドから転げ落とすところだ。身分の違いがこの世で一番面倒だと思う。
耳元で散々叫んで、やっとのことでルーク様は身体を起こした。半開きの目をしながら長い髪をガシガシと掻き回すせいで、余計に寝癖が酷くなる。
私は彼が完全に目覚めるまで側で見ていたのに、彼といったら朝のあいさつもなし。こちらから言ってやっと、「おー」とだけ言った。
そしてあろうことか、私がまだ部屋にいるというのにその場で着替えを始めたのだ。


「ルーク様!私がいるのに止めて下さい!ていうかこれ前も言った!」
「んあー・・・別にいいだろ」
「良くない!です!」


まだ寝ぼけているらしい。寝ているルーク様も怖いけれど何より寝起きが酷い。疲れるし喉は痛くなるしで朝から体力を奪われっぱなしだ。


「あー、もう私疲れました。明日から他の人に代わってもらおうかなあ」
「はあ!?約束破るのかよ!」
「約束?」
「ずっと俺の世話するっつったろ!忘れたのかよ!」
「んー?・・・」


上半身だけをアンダーに着替えた彼は、ズボンに手をかける前にベッドから飛び降りた。
そしてこちらに詰め寄ってきては怒鳴る。こんな至近距離で大声を出されたら煩くて仕方ない。
けれどここはメイドの意地。ぐっと押し耐えて、険しい顔をする彼の言葉を思い出すべく、腕を組んで考えに更ける。
ぽんっ、と浮かんできたのはもうずっとずっと前、7年前に誘拐された彼が戻ってきて間もない頃のこと。喋れない、歩けない、考えられない赤子と変わりない彼に皆尽くしていた時。泣きわめく幼い彼をなだめたことがある。『一人じゃ分からないならずっと一緒にいるよ』と。それはまだ小さい私には気付けなかった感情故の言葉。
もうずっと忘れていた。だから私より、彼が覚えていたことに驚いた。


「・・・ルーク様、よく覚えてましたね。あの頃は話すこともできなかったのに」
「話せなくても覚えられんだよ」
「私が教えたオールドラント歴は全く覚えなかったのに」
「い、いーだろ!覚えたくなかったんだよ!」


覚えたくなかった、なんて、本当にそんなことでいいのだろうか。けれど思えばそれが彼だった。何らおかしいことはない。
あまりに子供っぽくて、クスクスと笑うと彼はいつもより数倍の不機嫌になる。誰かにからかわれたり馬鹿にされるのが何より嫌いらしい彼なのだから、当然の反応といえるだろう。


「あははっ、そうだね。一緒にいるね、ルーク」
「なっ、なに呼び捨ててんだよ!」
「いいじゃない。昔はずっと呼び捨てだったんだよ?」


ムスッとした彼は、「覚えてねーよ」と文句を言っていたけれど、微妙に赤みを持った頬に説得力はない。すぐ顔に出るのは口の悪い彼の心情を知るのに一番手っ取り早い。
一緒にいるよ。もう一度言うと彼は笑った。照れくさそうに楽しそうに、笑った。
窓から吹き込む風に揺られて、私達は二度目の約束を交わした。





あなたが望むなら私は星にだってなりましょう
(もしもあなたが空に消えるというのなら、私はその傍で瞬く星になってあなたを照らし続けよう)


―――


意味わからん\(^0^)/
長髪ルークは本当に難しいですね…orz



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