5万打

□これが始まり
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「おはー!」


教室に大きな挨拶が飛び込んでくる。どきん、心臓が一つ、うるさい鼓動を上げた。
元気で明るくて、どこか凜としていて年上にも思える。そんな彼女の声を気にし出したのは、いつ頃だったか。
未だオレは、踏み出せないでいる。
元々気の小さい性格なのだ。みんなに囲まれて楽しそうにしていて、いつも笑顔の中心にいるような彼女に、声をかける勇気なんてなかった。


「相田ぁ!あんた昨日、私のペン持ったまま帰ったでしょ!」

「おー忘れてた。ちょい待ち」


あはは!と笑いが起こり、相田と呼ばれた男子は自分の机をゴソゴソと漁ってそこから黒い筆入れを取り出した。
知っている。確か昨日、相田は日直日誌が抜けていたからと言ってたまたま近くにいた彼女にペンを借りていた。それをそのまま持って帰ってしまったのだろう。なんでそんなことを知っているのだろう。いや、決まっている。いつも彼女を目で追っているから、今もこうしているように。

不意に、横を向いた彼女とばちり、視線が合わさった。
にこっと反射的なものか明るく微笑まれて、気恥ずかしさと動揺で軽くお辞儀だけで返した。
う、わ。目、あった。たったそれだけなのにやたら感動して、また笑顔を浮かべた彼女に顔が熱くなる気がした。
太陽みたいな人だなあ、と有り勝ちながらもそう思い、そんな自分が少し恥ずかしくなった。
馬鹿みたいにドキドキしているオレを余所に、授業の開始を告げる鐘が鳴った。

こつん、いつものように眠気と戦いながら黒板の文字を目で追っていると、ノートの上に丸められた紙が転がった。
何かと思いシャーペンを放しその紙を手に取る。当然オレにこんなものを渡される覚えなどなく、何となくという軽い気持ちでそれを広げた。


「・・・っ!」


ガタッ、思わずイスから立ち上がりそうになって、慌てて座る。
もう一度紙に目を向ける。青色のペンで文字の綴られたメモ。『さっき目合ったよね』。たったそれだけが、オレを緊張させる。
だって、さっき目が合ったのなんて、彼女だけだ。
そっと斜め後ろを見て、こちらを見ていたらしい彼女がにこりと微笑んだ。
顔に出さなくても内心は驚いたり焦ったり、何より緊張した。今まで殆ど話したことのない彼女が、自分からオレに話を振ってくれたのだから。
とにかく返事をしなくてはと、ノートの後ろの方のページを引きちぎる。
『うん、オレもそれ思った』
一言だけ、素っ気ないとは思ったが長い文章を書くのも変だと思いそれだけを黒ペンで書いた。
教師の隙を伺って、ぽいっと彼女の席に紙切れを投げると彼女はそれを難なく片手で掴んだ。
紙を開く彼女の動作に張り詰める心臓が痛い。
しばらくしてまた、先程と同じ柄のメモが丸められて飛んで来た。
『私沖くんと話してみたかったんだー』
う、わあ。どうしよう。なんでこんなに、彼女はオレを緊張させるのだろう。手が震えそうになる。授業中の手紙という小さな逢引がくすぐったい。
『そう?オレも話してみたかったかも』
かも、なんて。本当はずっとそうしたかった。遠くで見るだけじゃなく言葉を交わしてみたかった。この授業が終わったら、普通のクラスメイトみたいに話せるだろうか。
ぽこん、頭に小さな衝撃。くるっと振り返ると、彼女が小さく手を合わせていた。ああ、メモが当たったのか。机の下を見ると、確かにそこには小さな紙があった。
教師にバレないように小さく謝る彼女に苦笑して、机の下から紙を取る。
開いて、オレはそのまま固まった。


『なんで?』


紙の真ん中にそれだけ書かれていた。余計な文字なんて一切ない、怒っているとも取れるそれ。
後ろを振り返るけれど斜め後ろの彼女はやっぱりうっすらと微笑んでいて。これにどう返したらいいのかわからなかった。嘘を言ったらいけないような気がして。
せっかく同じクラスなんだし。友達は多い方がいいじゃん。
言い訳はいくらでもあったけれど、それを書いてはいけないと思った。彼女が真剣に返事をしているような気がしたんだ。
調子に乗るな、まだ殆ど話したこともないような相手だぞ。わかっているのに、手が勝手に動き出す。ペンを持って、彼女の青い文字の下に一言。
それを彼女に向かって投げてすぐ、机に顔を伏せた。ああ、やってしまった。
耳の奥の方で、チャイムの音を聞いた気がした。










これが始まり
(有り勝ちでも一番に思い付く気持ちはたったひとつだから、拙い言葉でもきみに届いてくれればそれだけで)
(好きだから)



――――



初おっふぃー夢ですー。沖君かわいーですよねー^^



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