5万打

□ぼくたち只今急上昇中
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田島に恋してから半年ちょっと。彼に告白されてちょうど二週間。
入学してからずっと続けていた片思い生活に終止符が打たれて、晴れて私と田島は彼氏彼女となった。
その時はただ自分の身に起こった幸せに歓喜して、それだけでいいと思っていた。実際にしばらくはそれで満足していたのだ。
けれど私が何か変だと思ったのは少し前。
周りから見たら普通なのだろう、否、普通に見えて当たり前だ。私は彼の変化を不思議に思ったわけではない。むしろその逆で。
変わらなさすぎるのだ。付き合い始めてから今まで、田島の態度は友達といるときと何も変わりはなかった。
そりゃあ田島の性格で、恥ずかしいとか照れくさいなんて思いはしないかもしれない。けれど田島というやつは、彼女ができたらもっと積極的になるものだとばかり思っていた。
あまりに普通すぎる彼。不安、なんて柄じゃあないけれど。


「田島、別れない?」
「へ?なんで?」


なんで。予想以上に軽々しく吐き出された言葉。少しの戸惑いも見せない、至って普通の態度。
ツキリと心臓が痛む気がした。
ここで泣いてしまえたらどんなにいいだろう。不安なんだって、それくらい大好きなんだって、言えればいいのに。
田島は知らないだろうけれど、私はずっとずっとあなたを見ていたんだよ。普段の元気すぎるくらいな姿も、野球をしているときも、あなただというだけで私の中で大切なものになっていった。曖昧でおぼろげだった想いが日に日に強く根付いていって、もうずっと前から、あなたは私の特別なんだよ。
けれど、結局それは一方通行で、きっと田島までは届いていないのだろう。


「田島、私のことそこまで好きじゃないでしょ」
「んなことねーぞ?」
「だって、私ばっか悩んでる・・・!」


泣いてはいけない、止まらなくなる。
今にも負けそうな涙腺を必死に叱り付けて。早く早く、別れを告げて。
苦しいんだよ、あなたに恋するだけで私は泣いてしまうよ。どんなに訴えかけても、特別だったのは私だけ。
ンなこと、ねーってば。ずいぶん近くで聞こえた気がして、顔を上げればすぐ目の前にいる田島。手を伸ばせばすぐに届きそうなのに、触れてこようとはしない。


「オレな、けっこー悩んでんだぞ!」
「田島、が・・・?」
「おー!おまえは女だからわかんねーかもしんねえけど、男ってすげー大変なんだよ!」
「大変・・・」
「彼女できたらすぐ触りたいし、だけどそしたらもっと欲しくなるし」
「それ、田島だけなんじゃ」
「ちっげーよ!ぜってーみんなそうだって!」


両腕を振って力説する田島の姿は子供みたい。けれどその内容はだいぶ受け入れ難いもので、本当にそうなのかと田島を疑うように見てしまう。
でもさ!叫んだ田島の声が、薄い沈黙を消し去った。


「そーゆーのなんか違うと思ったから、ガマンすることにした!」


にしっ、田島はいつもの笑顔で言い放った。まさかその一言が私の悩みを吹き飛ばすなんて知るわけがなかった。
つまり彼は、普通に接することで私を大事にしてくれていたということなのか。
不謹慎かもしれない。けれど隠せる気がしなかった。嬉しい。
いつもはバカで考えナシなんて言っているけれど、今そこにいる田島はすごく大人に見えた。


「んー・・・怪しいからもっかい言っとく」
「え?」
「好き」


不意をついて出た声があまりに自然で、思わず言葉を失う。そういえば、好きだと言われたのは2回目だった気がする。
とりあえず、とでも言うように差し出された右手。
だから、今はこれだけ!笑いながら言われて、何故か今まで悩んで泣きそうになっていたことが吹っ飛んだ。こんな彼氏を疑うような私を大事に思ってくれているのか、とか、私のことをそこまで考えてくれていたのか、とか。とにかく嬉しくて恥ずかしくて、ごまかすように差し出された手に触れた。
ぎゅうー、と手が強く握られて顔が熱くなる辺り、私は相当こいつが好きらしい。










ぼくたち只今急上昇中
(きみへの想いもこの熱も、とどまることなんて知らないの!)



―――



『告白』にしては珍しい恋人ネタ^^
田島様素敵!(笑)



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