5万打

□遠回しな愛情表現
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「巣山君おはよ!」
「はよ」
「今朝も野球部練習してたね、お疲れ」
「おう」
「巣山君ていつもショート?」
「だいたいはー・・・って、おまえ野球詳しかったの?」


くるっ、と顔だけこちらに向ける巣山君に頷く。昔から野球は好きだけれど、帰宅部である私にそのイメージは付きにくい。誰にも話していないから、当然巣山君もそれを知らないのだ。
へー、野球好きなんだ。そう言う巣山君はどこか嬉しそうで、自然と頬が緩む。やっぱりかっこいいなあ。


「ショートってかっこいーよね」
「何で?」
「だってショートは技術と頭なきゃやってけないんだから!」
「どこもそれぞれ技術も必要だし頭も使うと思うけど」
「それでも!ショートかっこいーよ!」


ぐんっ、と乗り出して話す私に押されて、巣山君は戸惑いながらも軽く頷いた。
彼の言うことがわからないわけではない。確かに野球というスポーツは、頭も身体も使う。考えが甘いと相手に作戦負けすることもある。適していない守備でミスをすることもある。
それぞれの適性と考え方で、野球はいくらでもその在り方を変える。
それでも、私がショートにこだわるのはそれなりの理由があった。不純な理由かもしれないけれど、嘘ではない。


「はよー」
「あ、栄口君。おはよ」
「どこ行ってたんだよ?」
「シガポー。数学のプリントなくしたからさ」
「え、えらーい!」


わざわざなくしたプリントをもらいに行くなんて。それも白紙のものを。一度埋めたところをまたやるというあの虚しい感覚。できれば多くは体験したくない。
巣山君の隣の席にバックを置く栄口君。そういえばこの間の席替えで隣になったんだっけ。いいなあ、野球部仲良くて。


「あ、じゃあ私戻んねー」


巣山君の席からするっと離れる私。本当はもう少し話したいような気もしいてたけれど、あまりちょっかいを出しすぎては迷惑だろう。
私の席は巣山君と2つ離れた列の一番後ろ。会話するチャンスもなければ顔を見ることもない。ガタリと席についてしまえば、自席で話す巣山君と栄口君の会話は聞こえない。


「・・・あいつ頑張ってんなー」
「何が?」
「巣山は鈍いからなー」
「はあ?だからなに」


今までここにいた彼女を遠目に見ながら、呟いた栄口の声に巣山は聞き返す。
すると何故か苦笑気味に返されて、余計にわけがわからない。
更に聞こうとすると、軽くにやつきながら聞きたい?と言う。今日の栄口は何かがおかしいと思いながらも、やはり気になって軽く頷いた。それに栄口が満足そうにした理由も、巣山にはわからなかった。


「あいつが、ショートかっこいいって言ったの」
「何だ、聞いてたのかよ」
「おー。で、なんでショートか知ってる?」
「知らないけど、」
「あいつはショートが好きで、さあおまえのポジションは?」
「!」


ぽかん、と口を開いて、やっと気付いたらしい巣山を見て栄口は頬を緩めた。
これで今日の昼休みには、彼女の苦労も終わるだろう。










遠回しな愛情表現
(おまえな、そういうことはちゃんと言え!)
(い、えないでしょ!)
(オレだって好きなんだって!)
(!!)



―――



巣山君わっかんねぇぇぇぇ;;
男前崩してごめんなさい・・・orz



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