2周年フリリク

□今日に恋する。
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私のカレシは、野球と三橋君がコイビトな野球部捕手。
何かおかしくない?と思わないわけではないけれど、それ意外に言い様がない。
何しろ、彼の優先順位の第一は野球と三橋君。私は良いとこ3番目くらい。
彼女ってこんなもんなのかな。
アベに告白したのは結構前。ちょうど夏の大会が始まった辺りだろうか。

中学が同じだった私と阿部。中学でも彼はシニアだの何だの忙しかったけれど、多分、女子の中では仲の良い方だったと思う。そういえばシニアでも投手に振り回されてたとか言ってた気がするんだけど・・・。
兎にも角にも、それなりに一緒に行動していた私達。
性格は置いといてまあ顔は良かった阿部だから、私は女子に妬まれて軽く嫌がらせされたこともあったけれど、彼は結局それにこれっぽっちも気付かなかった。2年になってから卒業まで、ずっと。

けれどそれだけの苦労をしただけの甲斐があって、今年の梅雨明け、見事友達から恋人に昇格したのだ。
一緒の高校に入りたくて勉強した、なんてヤツは気付きもしないだろうな。

だけど何かが違う。私が憧れてたのって、こんなのだったっけ。
昔と変わらず友達の延長線。あとは時々部屋にお邪魔するくらい。

私ってホントに彼女なのかなー。阿部って明らか私より三橋君構ってるよなー。暇さえありゃ野球だし。それ意外は食うか寝るか。食べてすぐ寝ると牛になるんだよ知らないわけ?

結局、阿部は私のことすきなのかなー。


「くっだらねー妄想」

「わ、」

「おまえ暇だなー」

「は、なに、何が?」

「声に出てたけど」


え、と呟いた私の顔は、かなりマヌケだったと思う。
けれどコイツ、阿部は、特に気にもせず私の隣に座った。
そうだ、そういえば今は阿部の家に来ているんだった。
週に一度のミーティングの日、時々だけれどこうして家にお邪魔している。
ことん、とテーブルに置かれた二つのグラス。ぶっきらぼうなくせにさり気なく気が利くのだ。


「で?」

「へ、なに?」

「何じゃねーよ。オレがお前のこと、なんだって?」

「あ、あー・・・」


不覚にも聞かれてしまった独り言。
誤魔化し様がない。ていうか、私バカだから無理、うん。
じーっとこちらだけを見つめる阿部。ちくしょーカッコいいな。
けれどいつまでも見られているとだんだん居心地が悪くなってくる。いい加減に穴開くから、私。
いつもタレ目だ野球馬鹿だ言っていても、やっぱり好きなんだ。こんな時、自覚する。
けど、阿部はどうなんだろう。何をするにも、どんな時にも、野球、野球。
やっぱり私って、野球に負けてるのかな。
思ったら、胸の中心がキリッと痛んだ。


「ひでー顔」

「な、さっ最悪!」

「や、鏡見てみなって」

「るっさい!」


ぺしっ、目の前のツンツン頭を叩いてみる。ぺしっ?いや、バシッくらいはいってたかな。
思ったより強くなってしまった打撃。阿部の頭が前に揺れて、いてっ、と声が上がる。
しまった。そんな強くするつもりはなかったのに。
案の定、上がった阿部の表情は険しいものだった。


「あ、の、阿部・・・」

「・・・ったく、このアホ」

「ひゃわっ」


軽く後頭部を掻いた阿部と、ばちりと目が合った。
つい身体が強張った。すると阿部は不意をついて自分の足を私の足に引っ掛けてきた。
必然的に揺れる私の身体。カーペットに向かって右方向に倒れ込んだ。
文句を言おうと起き上がろうとすると、今度は阿部自身がすぐ隣に寝転んできた。
突然のフェイントと予想外に近すぎる距離。
すぐそこに阿部がいるとわかった瞬間、ぶわっと顔中に熱が広がった。
それだけで死んじゃいそうなのに、ぎゅうと抱き寄せられて、もう本当に死んじゃうんじゃないだろうか。


「な、ちょ、あべ・・・」

「あー、なんかもうメンドクセー」

「はあ?」

「オレは、野球にも三橋にもこんなことしねーぞ」


野球にやり様がねーし。つかなんで三橋なんだよ、バカか。
隣でぶつぶつと文句を言う阿部。何となく、ピンと来た。

何さ、自分が悪いくせに。いつも三橋があーだこーだ言うからだよ、バカはそっちだっつの。しかも不器用だし。何あんたが呆れてんのよ。立場逆だし。

でも、


「・・・なんか私もめんどくなったー。ねー阿部、寝てい?」

「一時間で起きろよ」

「はーい」










今日に恋する。
(今日この日に恋して、今日のきみをもっと好きになる)





“普通の”阿部君は包容力があると思うよ^^



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