2周年フリリク
□どうかこれが終わらない恋でありますように
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「おまえさー」
「んー?」
「オレより先にオレの部屋に帰ってンのやめろ」
オレのベッドにごろごろ転がってケータイを弄っているこいつは、小学校からの友達、というか腐れ縁。
遠慮もなしに人の布団で動き回るせいで、水色のタオルケットは見事に足蹴にされ隅っこの方でぐしゃぐしゃになっていた。
部活から帰ると彼女はしょっちゅう部屋にいて、そんな日常が嫌なわけではないけれど、ちょっとは気にしろとか思ってしまう。
それに何より、こいつには・・・。
「何してんの」
「メール。・・・あ、今ちょうど『また泉ン家?』ってきた」
「・・・浜田か」
ほら、やっぱり。
ここにいるのがオレとこいつだけでも、こいつの頭ン中には必ず浜田という男が存在している。
もう、やめろよ。なんでオレ達しかいない時にまで、おまえが割り込んでくるんだ。
浜田が留年して、オレ達にハンデなんてなくなったのだと知った時、何故か全てが終わった気がした。
「ハマちゃんてさ、メールだと性格変わるよね」
「そうか?」
「顔文字とか記号たまに付いてるし、まあ丸と点しかないのより楽しいよ」
丸と点・・・。言われてみて、オレが送るメールを思い浮かべてみる。
こいつからのメールは何行もあるのに、オレの返信は1、2行かもっと酷いと『そう』とか『わかった』とか一言の時もあって、オレのメールってこいつの嫌いなタイプじゃんと気付いてまた浜田との差を感じた。
「あ、あんま遅くまでいるなよーって言われた。家近いしいいじゃんねー」
「よくねーよ」
「泉は冷たいなぁ」
カチカチ。しばらくケータイを打つ音が続いて、ぱたんと閉じられる。
むくりと起き上がったこいつ。多分これ以上いたら浜田に怒られると知っているから。
私もー帰るね。腕を上に伸ばしてうーんと伸びる彼女は、へらりと笑ってベッドから立ち上がろうとした。
いつもの光景。の、はずだった。
「いずみ・・・?」
掠れた声が聞こえる。こいつの。
本当に無意識だった。いつものようにこの時間が終わるのだと、思って。
オレはこいつの肩を掴んでいて、立とうとした身体をまたベッドに座らせた。
いつも、怖かった。浜田とどんどん仲良くなるこいつ。オレだけが蚊帳の外で、ひとり一方通行な気がした。
今何を伝えてもこいつの気持ちは簡単に揺れるほど軽いものではないとわかっているのに。見てほしかった、オレを。
立っているオレと座っているこいつ。
その距離を、ぐっと縮める。
カシャン、あいつのケータイが落ちた音が響いた。
一瞬触れてすぐ離れたそれは、酷く短い時間に感じられて、だけどその一瞬で全てが崩れたのだと、理解するには十分だった。
呆然と、ただ目の前に視線が合わさっているだけのこいつに、幼馴染み以上の感情が膨らんでいく。
「・・・もう、おまえ帰れ」
謝る気にはなれなかった。
どんなに酷いと思われても、半端に仲良くされるなんてもう嫌だった。
そうやっておまえは、オレに特別な感情を植え付けて、結局はあいつのところに行くのだから。
もう、終わらせてしまった方が楽なのだと、きっと全部諦めてしまったのだ。
勝手に浜田のところに行って、それでこんな最低なオレなんて、嫌いになってしまえばいい。
そっと、肩に触れていた手を離した。
「、い"っ・・・!?」
顔を背けた刹那、ガンッ!と何とも痛々しい音が響き、スネにとてつもない痛みが走った。
それは彼女がオレの足を思い切り蹴ったからで、驚いたオレは後ろに倒れ込んだ。
ジンジンと痛む足を押えて、おそらく涙目になっているであろう顔を上げると、目の前には見たこともない表情の彼女がいた。
泣きそうにしているのに、眉を顰めて顔を真っ赤にしている。
「っこーいうのって、ないんじゃない!?」
「・・・るせー」
じゃあどうすれば良かったんだよ。普通に伝えてしまったら、きっと後にくる言葉は『ごめん』。そんなの聞きたくないのに。
早く、早く出て行って、オレを嫌いになってしまえ。
きみに嫌われることでオレがきみを忘れることはできないけれど。
ズキズキと胸を刺す痛みと後悔がこの先ずっと消えなくても、オレは。
「すき」
え、と声が飛び出た。今、なんて。
見れば、彼女はぼろぼろと涙を流しながら好き、と繰り返していて。
それはオレがずっと求めていた言葉。
ぽたり、滴がひとつ、手の甲に落ちた。
どうかこれが終わらない恋でありますように
(すれ違いはオレ達に深い傷を残していったけれど、痛みの先にあったものは奇跡にも似たあたたかなぬくもりだった)
―――
ぶっちゃけ2回書き直しました・・・。
短編で嫉妬やシリアスは難しいですねー(笑)
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