2周年フリリク

□小指で語る愛
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なあ。呼ばれて横を向けば変わる温度。一瞬触れてすぐ離れる、甘えたがりの彼にしては珍しくあっさりしたキスが落とされた。
まだ5時過ぎなのにすっかり落ちた太陽の陽射し。私の嫌いな冬が近いというのを知らしめるように地面に散っていく落ち葉を踏み締めたまま足が止まった。
一度彼の家に寄った帰り、送ってもらっている最中に突然のキス。なに?と聞けばぎゅーっと目を瞑って一人でうなだれる。


「あのさっ」
「ん?」
「おまえ、あんまり好きとか言わないよな」
「え、うん、まあ」
「なんで?」


じ、っと見つめて尋ねてくる瞳に、穴が空きそうになる。いや、実際穴なんて空くわけがないのだが、何となく、そんな気分になる。あまり変わらない身長のせいで、顔が近い。
なんで、と言われても。もちろん理由がないわけではないのけれど、本当は一日に何回でも好きと伝えたいのだけれど。


「・・・なんか、言ったら、なくなっちゃう気がして」
「?」
「だから、好きって言い続けてたら、いつか期限切れして悠がいなくなっちゃう気がするの」


自分でもおかしいと思う、こんな考え。ただのひねくれ者だ私は。
悠だって絶対変だと思う。顔を見られたくなくて、マフラーで顔を隠して下を向いた。
おかしいとは思う。けれど嘘ではなかった。
悠を好きなのは疑うまでもなく事実だ。けれどその分の不安も大きい。
もしかしたらこの先、悠が離れてしまうのでは。こんな幸せがいつかなくなってしまうのでは。わかりもしない未来のことばかり気にしてしまう自分が嫌だ。
本当はもっと、何の疑いもなく悠と恋していたいのに。


「・・・なんで?」


今日二回目の問い掛け。けれどさっきとは違う、真剣に話しているのだと声でわかる。
答えられない、顔も上げられない。怖い。
頬に当たる風が無情なくらいに冷たい。冬の空気に突き放されてどんどん追い詰められていくような気がした。
ごめん、なんでもないよ。そう言ってしまおうかと思った。悠と喧嘩なんてしたくない。
けれど、ほわりと右手に小さなぬくもりを感じて、開きかけた口がまた閉じられた。ぎゅう、と手が握り締められる。
悠の熱に促されるように頭を上げると、すぐ近くに彼の顔があった。


「・・・オレは、おまえのこと嫌いになんねーし、ぜってー離さねーよ」
「悠、」
「卒業したらケッコンしたいし、ずっと一緒にいたいよ」
「けっこん・・・」


悠の言葉を繰り返して、慣れない響きが鼓膜を揺らす。
けっこん、結婚。その意味は知っていても、悠とそんなこと考えたことはなかった。結婚したくないわけではなくて、そこまで考えが進まなかったのだ。
けれど悠は、大雑把でも漠然でもちゃんと考えていてくれた。他の誰でもなくて、私がいいと、言ってくれた。
悪い想像ばかりが浮かんで一人怯えていた。臆病者で、弱い私。それでも悠は嫌な顔一つせずにそばにいてくれる。
私は、そんなあったかい悠が大好きで。


「私、も・・・悠とけっこんしたい」
「ホントに!?」


うん、と返せばその場で飛び上がるくらいに喜ぶ悠。まるで犬みたいだ。奥の方を通る人がこちらを向いて、すぐに通り過ぎていく。
ぶんっ、と握られたままの手を振られて、悠は私を引っ張りながら歩く。
ころころと表情の変わる彼。笑った顔も真剣なまなざしも、全部大切で全部が愛しい。
絶対じゃない。もしかしたら、こんなに優しくて幸せな恋もいつかは終わるのかもしれない。私達はそれぞれ別の道を歩き出す日が、遅かれ早かれ来るのかもしれない。
それでも、今この瞬間には嘘も後悔もない。迷いも、彼の言葉に消え失せてしまった。
好き。ただそれだけで、一緒にいられる。だって私は確かに、田島悠一郎に恋しているのだから。
未来なんてわからない。一年先も、明日の自分の姿も見えないけれど。
引きずられるように悠に着いていって、入学当初よりずっと広く頼もしくなった背中を見つめて、頬が緩むのを意識の隅っこで感じ取った。





小指で語る愛
(小さく差し出されたそれを自分の指と絡めて笑う、今ここにいる私達は嘘じゃない本物の想いを抱えて生きているのだから)


―――


田島様かわいいです。かわいさを出し切れなくて泣けてきます。
最近婚約ネタ多いなあ、と自分で思ってたり(笑)



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