2周年フリリク

□スロウ、スロウ、スノウ
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誕生日、という名の僕が拾われた日。あれから早いものでひと月が過ぎて、今のところ、平和とは言い難い状況下にあるホームこと黒の教団。日頃の忙しさにうっかり忘れてしまいそうになるが、誕生日のひと月後といえば、自分としては忘れていたくない大事な日だったりする。ちなみにそれは1月25日に限られたものではなく、実際は毎月25日に関わってくるのだが。
誕生日、正確ではないが一つ歳を重ねた日。もう一つ僕の中で変わったことがあった。
生まれて始めて、いわゆる恋人というものができた日だったりする。つまり、必然的にそのひと月後である今日、1月25日は付き合って一か月記念となるわけだ。一応言っておくと、これは自分が勝手に気にしているだけで、彼女がどう思っているのかは知らない。


「アレン、雪、すごいよ!」


教団の敷地内から出れないといっても、その敷地はかなりの面積で、高い崖の上だというのにまるで地上と同じように、真っ白な雪が高く降り積もりキラキラと瞬く銀世界を作り出していた。
それを見るなり外に飛び出した問題の彼女は、普段と変わらぬ素振りで僕を雪の世界へと手招く。比較的暑い国で育った彼女は、人生で雪というものを見たことが殆どないらしい。子供みたいに走り回って、すごいすごいと笑う表情は酷く幼く、同時に愛らしくも見える。
白銀に、闇色のブーツを踏み込んだ。


「こっち見てください」
「ん?っうひゃ!」
「あははっ」


ビクン!と彼女の背筋が伸び切った。理由は簡単、彼女の頬にすっかり冷たくなった僕の手のひらを当てたから。
予想以上におかしな叫び声に笑いが零れ落ちる側で、おそらく顔を赤くしたであろう彼女が文句を言っていた気がする。


「何すんのよ!」
「いえ、ちょっと楽しくて」
「え、わっ、つめた・・・!!」


嘘偽りない言葉を並べてその手を首筋まで動かせば、あまりの冷たさに我慢ならなくなったのか彼女は抵抗し始め、叩かれる前にパッと手を離すとやっと安心したように息をついた。そのすぐ後に睨まれたけれど、どちらが優位かなんて一目で分かるこの状況、僕が折れるはずがなかった。
あはは、と渇いた、わざとらしい笑みを浮かべて、彼女が油断している隙にまた手を首筋へ当てた。もちろん同じように叫び声が上がる。
戦闘以外ですぐに隙を見せるのは、彼女の悪い癖だった。敵との戦いにそれが影響することは、驚くことに一度もないので、彼女自身あまり自覚はしていないらしい。


「ちょっとアレン!やだやだ冷た…!」


彼女が俯いて身を捩る。ふわっと浮いた髪がまた落ち着くと同時に、そっと顔を近付けた。黒と白が混ざる瞬間を垣間見たような気がした。
触れて、すぐに離れれば彼女の表情は一瞬前とはまるで違っていて、おかしくて嬉しくて、堪え切れずに思わず噴き出してしまった。
それを見た彼女は当然不機嫌になるわけだけれど、謝罪と、それから少しの感謝を込めてくちづければすっかり冷たくなった赤い頬をに雪を散らしながら笑うのだ。
意地悪、と悪態付く愛しい声に、また幸せが込み上げた。





スロウ、スロウ、スノウ
(好き、好き、どれだけ言っても足りないほどに)
(だから言わない、君から聞ける瞬間までは)


―――


黒くないorz



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