2周年フリリク

□厄日
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「だからね、ルーク」
「う、うん・・・」


ある日の早朝。まだ誰も起きていないような時間に二人は話していた。うっかりしたらジェイド辺りは起きてしまうかもしれないから、できるだけ小声で。いい歳した男女が二人で内緒話なんていうのもなかなか情けない様だが、今の彼女達にはそうせざるを得ない理由があった。
真剣なまなざしでルークに語る彼女は、ルークのあやふやな返事に頷いて次にはビシッと人差し指を向けた。


「これを利用しない手はない!」
「・・・は・・・はあ?」


彼女の的外れな発言に、ルークは首を傾げる。オプションとして付いてきた嫌な顔には、おそらく本人は気にもかけないのだろう。
てっきり何か対策やら解決策でもあるのかと思いきや、『利用』とは。理解しがたい発言にルークの頭はだんだんと混乱してきた。否、それ以前からもう、ルークは慌てて焦っての繰り返しだった。
楽しそうに話す彼女、もとい『彼』。そしてそれを馬鹿正直に聞いているルークもとい『彼女』。普段ルークを見上げる形にある彼女は、今や全く逆の立場。
要は、そう。あまりに受け入れがたい事実なのだが、どうやら今、ルークは『彼女』であり彼女は『ルーク』。つまり、二人は今、個々の身体を全く逆に使っているのだ。
事の始まりを語るなら、それは昨夜のこと。それぞれ修行に向かった二人がばったり出くわす。そこで一緒に修行しようという話になったところまでは、まあ良いとしよう。
修行の最中、うっかりルークが足をもつらせたことが、思えば全ての始まりだった。突然のことにルークを支え切れず、彼女もろともルークは盛大にずっこけたのだ。


『いったぁ・・・ちょっとルーク!』
『わっ、わりっ・・・!・・・え?』
『・・・!!?』


気付けば身体が入れ替わっていた、と。
最初混乱していた二人だったが、漸く落ち着いた頃にタイミング悪く、ガイとティアが二人を迎えに来たのだ。ろくに話すこともできず、仕方なく翌日の早朝に彼女がルークを叩き起こしに出向き、そして今に至る。
そしたら彼女のこのお気楽発言だ。


「昨日一晩考えたんだけどね、私達みたいに身体が入れ替わるのは、ほんと可能性低いけど不可能じゃないと思うんだ」
「あー・・・えっと、つまり・・・」
「つまりね。二人の第七音素師がぶつかるでしょ?その時、何らかの衝撃でお互いの第七音素が干渉を起こすことがあるの。本来ならそれだけで終わるんだけど、ごく稀に、そのまま二人の第七音素が入れ替わる可能性があるの。その時に、一緒に脳神経もすり変わっちゃったんじゃないかな」


人差し指を立てながら彼女は説明をする。けれどルークの脳では理解するのにかなりの時間がかかった。それにしても、この光景・・・ルークが賢そうに説明をするなんて、今まで一度でもあっただろうか。いや、答えは否だ。自分で思っておきながら、なんとも不思議な気分だ。
それにしても、一晩でここまで考え付くものなのか。俺なんて直ぐさま寝たというのに。


「まあ、元々人間の音素振動数はバラバラだし、その内身体か第七音素そのものが拒否反応起こすと思うから、そしたら戻れるんじゃないかな。もし戻らなかったら・・・」
「戻らなかったら?」


んー・・・と顎に手を当てて考える様子をルークは緊張しながら見守った。だんだんと彼女の趣きが怪しくなっているような気がするのは、気のせいだろうか。


「・・・それはその時考えよっか」
「・・・」
「それ以前に、拒否反応起こして生きてられるかの方が問題だしね」
「えー・・・」


ケラケラと笑う彼女に、ルークは眉を顰めた。なんてお気楽、なんて奇想天外。とにかく命の危険が追加されたことは判明した。それを一番最初に言うべきだというのは、まあつっこまないでおこう。


「楽しめそうだからいいんじゃん?」
「・・・そうだなー」


諦め半分、あとの半分は彼女からの影響だろうか。とりあえず死ぬ時は一緒か、なんて思って何となくそれもいいか、なんて思ってしまうのは、俺の頭がどうかしてしまったからなのだろうか。
二人だけの秘密だね、なんて言っていた彼女に、どこまで流されてみようか。





厄日
(そうでもないかな、なんて思った早朝だったけれど例の変態鬼畜眼鏡にバレた時点で大いに後悔することになるのだった)
(ちなみに二日後、無事に二人は元に戻ることに成功した)


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