2周年フリリク

□スタンドバイミー!
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眩しい。それが一番最初の感想だった。少し遅れてから、ああ朝になったんだ、と自覚。夜は閉められていたはずのカーテンが今は半分くらい開いていて、そこから射し込む朝日が無駄に眩しい。
うーん・・・と唸りながら起き上がる。部屋には自分一人で、そういえば両親は旅行中だったと思い出した。兄貴は・・・昨日のバイトは遅番だったようだし、おそらく部屋で熟睡中だろう。
時計の示す時間は10年半。


「、・・・は!?あ?・・・ああ」


一瞬ドキリとした。いつもの癖で、朝練に遅刻したのかと。けれど、そういえば昨日の夜に目覚ましを止めた記憶が確かにあった。何でだっけ・・・と考えて、「ああ、そうだ」とぼんやり呟く。


「あ、孝介おきた?」


唐突に呼び掛けられて、泉は時間を見た時と同じくらい肩を震わせた。素直にびっくりしてしまったことに何となく恥じて、横目でドアの方を見れば、見慣れた姿が。
幼馴染み、兼、恋人である彼女。開かれたドアからひょっこりとこちらを覗いていた。


「・・・何してんの」
「えー、今日も来るって昨日言ったじゃん!」
「・・・・・・ああ」
「ったく、これだから風邪ひきは」


うるせーよ、と一言だけ返す。
そう、不覚なことに、どうやら自分は風邪をひいてしまったらしい。しかも両親の旅行中に。
そんなに酷くもなかったから自力で治そうとしていたのに、どこから聞き付けたのやら彼女の行動は異様に早かった。
昨日の夕方から付きっきりで、そういえば目覚ましを止めたのも彼女だったような気がする。
看病に来てくれたのは素直に嬉しいけれど、何だか情けないし彼女に移しでもしないか心配でもある。けれど、どうせそんなことを言ったって聞く相手ではないことくらい分かっている。熱の怠さもあって、諦めの方が随分早く訪れたのだ。


「ご飯は?」
「腹減らねえ」
「んー、なんか食べないと薬飲めないしなあ・・・他に食べられそうなものとかない?」
「・・・なんか、冷たいの」


なんか冷たいの、って何だよ。自分でも思ったけれど、それ以上の追求をする元気も今はなかった。
そんな曖昧な注文をされて困っているだろうに、彼女は真剣にウンウンと悩み始めた。お人好しめ。


「冷蔵庫にないんだよねえ・・・仕方ない、買ってこよっか」
「、あ・・・」
「じゃあ孝介、ちょっと待ってて・・・うわっ」


ぐらり。揺れたのは彼女の身体と、自分の神経。
いきなり腕を引っ張ると、彼女はバランスを保つ暇さえもなく後ろ、つまり泉の方に倒れ込んだ。それを受け止めて、泉も一緒にベッドに沈む。
慌てて退こうとする恋人を、泉は熱のひかない両腕で自分に閉じ込めた。


「・・・孝介、動けない」
「・・・いい」
「良くない。・・・はあ」


特に動じることもしない辺りが、さすが幼馴染みか。当然と言えば当然だ。抱き付くだの何だのは、もう十年以上も前からしていることなのだから。
はあ、とわざと聞こえるようなため息。ぴく、と泉の腕が反応する。
彼女はそのまま身体を反転させ、背中を向けていた状態から顔を向き合わせる形に。


「なに?私に移す気?」
「・・・嫌だ」
「孝介って熱ある時こんなキャラ変わるっけ?」
「・・・」


分からない、とでも言いたげな泉の表情を見た彼女から、プッと笑い声が聞こえた。心外だと思ったけれど、やはりそれを口に出す気力はなかった。
本当は違うんだ。キャラが違うだの何だのではなくて、言うなればこれが本当の泉。いつも思っているけれど行動できず、言いたいけれど照れくさくて。熱で性格が変わったわけではなくて、思っていることを抑えられないだけ。

そっと唇を彼女の頬に寄せた。熱じゃなかったらちゃんとキスできたのにと残念にも思ったけれど、やはり彼女に移したくはなかったから。
頬に口付けた後、彼女は何故かクスクスと笑っていた。何だよ、と不機嫌に尋ねても首を横に振るだけ。何でもない、と最後にまた笑った彼女も、泉の額にゆっくりキスをした。


「たまには風邪ひきも良いかも」
「バカ、冗談じゃねーよ」


野球できねーじゃん、と呟いた泉に、彼女もそうだねと頷いた。
けれど、泉も。風邪は嫌だけれど、こんな時間があるのは悪くない。ぼんやりと、そう思った。





スタンドバイミー


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