短編

□近くて遠い
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ブツブツと悪態をつきながらも後ろを着いてきていたはずの沖田が、急に静かになった。


やけに静かな後ろを怪訝に思い、振り返ると……すでにそこには、誰もいない。



ぽとり、口から煙草が落ちたが、それを気にするつもりは毛頭ない。いや、余裕がない。




今までの数え切れないほどの逃走に、そしてそれを怒らなければならなかった自分の身に。
今一度、土方は盛大なため息をつき、握り拳をそのままに、肺一杯に吸い込んだ空気を一気に吐き出した。



「――…っ、総悟ォォォ!!」



本日最初の怒号が辺りに響き渡った。
















近くて遠い


















最初に巡回のペアの義務化を提案したのは誰だったか。


巡回、いわば見回りは、上官の目が届きにくいことから、平隊士のサボりがちな仕事であり、それに困った隊長数名の提案の元、ペアを組んで回ることを義務付けされたのだった。




――しかし、問題が一つ。


確かに、部下のサボりは無くなった。無くなったのだが、…沖田がいることを失念していた。


仕事中だろうが何処だろうがグースカ昼寝することが日常茶飯事の沖田は、巡回中にもたびたびペアの隊士からふらりと離れて遊びに行ってしまう。

しかし、屯所一サボっているとは言っても、曲がりなりに一番隊隊長の位を持っている男だ。何度注意してもサボり癖が直らない沖田に、下の者が強く言えるはずもなく。そんなこんなで上司である土方に白羽の矢が立ったのだ。



つまりは、厄介な沖田を引き連れて巡回をするペア役を。





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