五線譜に想いを乗せて

□第2楽章 〜poco a poco〜
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次の日から早速授業が始まった…そして林檎先生から、いきなりな発表があった…

「じゃあ早速、みんなにはレコーディングテストに挑戦してもらいま〜す!!」
「「「「「え〜っ!?」」」」」

今回きりのペアで、アイドルコースの生徒は作詞を、作曲家コースの生徒は作曲をする…そして作った曲をレコーディングし、それを採点するとの事だった…

「…いきなりか…さすがは即戦力を養う早乙女学園…」
「ねぇねぇ、比呂子!誰とペアになったの!?」
「あ、友千香…」

黒板に貼られたペアの組み合わせを見ていると、友千香から声を掛けられた…

「…えっと、私は…」
「あ〜っ!!一緒だぁ!!」
「一十木くん!!」
「一緒に頑張ろうな!!」
「はいっ!!」

春歌は一十木くんとか…比呂子は改めて黒板を見る…女子は女子だったが、初日に春歌たちに陰口を叩いていた集団の1人だった…

「…う〜ん、出来れば春歌と組みたかったなぁ…」
「あ、宮澤!!宮澤は誰とペアになったの!?」
「一十木くん、いつも元気だね…えっとね、長谷川さんって人と…」
「俺、七海とペアなんだ!!」
「うん、だだ漏れで聞こえてたから…」

ペアを確認したところで、林檎先生が再びみんなを席につかせた…

「じゃあ誰かに、去年の最優秀作品を弾いてもらいま〜す…え〜と、七海春歌ちゃん、お願いね…」
「…えっ!?私!?」

春歌の名前が呼ばれた瞬間、教室内がざわめく…戸惑いの中で、春歌は教室後方のピアノへ誘われた…譜面を渡されると、椅子に座らされる…

「……………」
「…どうしたの!?春歌ちゃん…」
(…春歌…どうしたの!?)

座ったまま、動かない春歌に教室が再びざわめく…一抹の不安が比呂子に走った…

「…まさかあの子、楽譜が読めないとか!?」
「…弾けないんじゃない!?」
「弾けます!!おばあちゃんに習っていたので…」

思わず立ち上がって答えた春歌…だがクラスメートの視線は冷たかった…

「七海!気にしちゃダメだ!!」
「そうだよ春歌…」

音也が立ち上がり、春歌を庇う…そして友千香も…だが春歌の表情には戸惑いしか見えない…

(…春歌…大丈夫…だよね!?)

比呂子はただ春歌を見守るだけだった…



「…あ、雨…」

授業が終わり、外を見ると小雨がパラついていた…比呂子は1人、廊下を歩く…

「…春歌…一緒に帰ろうとしたのに…どこ行ったんだろう…」

作詞の資料を借りに図書館へ足を向けた比呂子…するとそこには春歌の姿があった…机には音楽理論などの本が山積みに…真剣にノートを取る春歌を、比呂子はただ見守った…

「あっ、ヒロちゃん…」
「四ノ宮くん、真斗くん…あなた達も春歌の事心配で!?」

ふと後ろに人の気配を感じて振り向くと、四宮と真斗が立っていた…2人は春歌の様子を伺うように見つめる…

「はい…でも案外ポジティブなんですね、安心しました…」
「………」

四ノ宮はにっこりと笑いながらそう言った…対して真斗は黙ったまま…だが暖かな目で春歌を見ていた…

「…邪魔しちゃ悪いし、私たちは退散しようか!?」
「そうだな…」
「あんな頑張りを見せられたら、僕もワクワクしてきました…レコーディングテスト、頑張りましょうね!」
「もちろん!!2人には負けないわよ!!」
「…あぁ、全力を尽くすだけだ…」
「僕だって、皆さんには負けません!!」

3人は図書館を後にする…と比呂子は一度後ろを振り返って、図書館のドアを見つめる…その先に居る春歌に対して…

(春歌、頑張れ…大丈夫…あなたならきっと出来るから…)

彼女ならきっとこのピンチを乗り越えられる…何故か比呂子には確信が持てた…



レコーディングテストの期日が迫る中、比呂子はベンチに座り作詞に勤しむ…

「…う〜ん、これもいまいちかなぁ…」

レコーディングテストのペアに貰ったサンプルの曲を聴きながら、考え込む比呂子…メロディーラインが殆ど同じように聞こえてしまう…

「…ハズレだな、この曲も…」

曲を止め、盛大にため息を吐く比呂子…イヤホンを外して目の前にある池を眺める…と、肩を叩かれ振り向くと、困った様子の音也が立っていた…

「音也くん、どうしたの!?」
「あ…うん…」
「…何か困ってるみたいだね…アタシで良ければ話聞くけど…」
「…隣、いいかな!?」
「どうぞどうぞ。」

比呂子が少し座る位置をずらすと、その隣に音也がゆっくりと座った…そして盛大にため息を吐く…

「…実は、作詞のやり方が分からなくて困ってるんだ…」
「あら、そう…」
「みんなに聞いて回ったんだけど…どれも俺には理解出来なくて…」
「ふ〜ん…」
「トキヤの話は難し過ぎるし、那月は意味分かんないし、翔は努力あるのみだって言うし、レンは愛のフレーズがどうこうだって言うし、挙げ句にマサは“心のダム”だって…聞けば聞くほど頭がこんがらがってなおさら分からなくなってきた…」
「…作詞のやり方なんて、十人十色だからね…」

話を聞きながら、そのやり取りを思い浮かべクスリと笑う比呂子…と、音也が改めて比呂子に向き直る…

「あのさ、宮澤は作詞する時、どういう風にやるの!?」
「アタシ!?…ん〜…」
「教えて欲しいんだ!お願い!!」

音也は一度頭の上で両手を合わせて比呂子に頼み込むと、顔を上げて比呂子をしっかり見つめる…その瞳は本当に純粋で真っ直ぐな音也の心を写している…比呂子はそう感じていた…

「じゃあ参考までにアタシのやり方を教えるね…アタシの場合は、曲があると作詞がしやすいのよ…」
「曲!?メロディだけとかでも歌詞が浮かんだりする!?」
「うん…一度聞いてすぐにの時もあるし、曲を何度か繰り返して聞いてって時もある…このフレーズにはこんな詞がいいかな!?とかね…」
「うんうん、なるほど…曲を聞いて、か…」
「それが音也くんに合うかどうかは分からないけど…でも曲がある方が歌詞は書きやすいとは思う…」

比呂子なりの見解だったが、音也は納得したように何度も頷いた…

「…何か宮澤のやり方が俺にはしっくり来るかもしんない…ありがとう!凄く助かった!!」
「いえいえ、どういたしまして…」
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