□お願いだから
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「たいちょ」

部屋に向かって声をかけると物音が奥から聞こえてきて暗い部屋からこの部屋の主である市丸ギンが顔をだした。

「あれ?珍しいなぁ?どうしたん、急に」

不思議そうな顔で尋ねてくる彼に私は答えが見つからずに口ごもる。

「・・・・・別に何って用事はないですけど・・・」

ただ会いたかったからきたのだ。
明日に隊長と会えるかなんてわからなかったから。
隊長はいつもどこかへ消えてしまいそうだったから。

そう言うと隊長はははっと笑い「変なの」とつぶやく。
確かに、変だ。
おかしい。今日の私はおかしいのだ。
ていうかこんな夜中に来ちゃったら迷惑きわまりないし。

私はさっと立ち上がり

「帰ります」

と言って頭をぺこりと下げてその場を去ろうとしたが、それは叶わなかった。
元々暗かった目の前が更に光を失って。
変わりと言ってはなんだが、そこには温かいものが存在していた。

「たい・・・ちょ?」

もごもごととりあえず身じろいで隊長の体で完璧にふさがれていた口を開き酸素を求める。

何だろう。
何が起きているのだろう。
わからない。

でも、隊長が小さくつぶやいた言葉は確かに「ごめんなぁ」という謝罪の言葉だった。
何だろう。
どうしてだろう。
隊長の今日の言葉は、その謝罪の言葉はいつもより重く感じた。

「どうして、謝るんですか」

喉からこみ上げる熱いものを必死に飲み込んで、声を振り絞れば。

「別に何でもないで」

と言う少し悲しそうな隊長の顔が見えた。

そして隊長がここから消えてしまったのは翌日。
決して私の予感は外れではなかったのだ。
確かに隊長はいなくなってしまったのだから。

だからと言って、どうしてそんなことをしたんだ、とかそういう言葉は出てこなくて。
ただ・・・



お願いだから
(時が戻るならあの時隊長を放さないで)(私も連れて行って、と言えたらいいのに)

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